韓国科学技術院(KAIST)は1月20日、米ミシガン大学との共同研究チームがスマートウォッチから収集した活動量と心拍数データから、シフト勤務者のうつ症状を予測する技術を開発したと発表した。この研究成果は、学術誌npj Digital Medicineのオンライン版に掲載された。
研究成果の模式図。スマートウォッチで収集した生体データに基づいて、脳の概日位相と睡眠段階を推定する逆問題を解く数学的アルゴリズムを開発。このアルゴリズムにより、概日リズムの乱れの程度を推定することができ、この推定値をうつ病リスクを予測するデジタルバイオマーカーとして利用することができる。
(出典:KAIST)
精神疾患の新たな治療アプローチとして、脳の視床下部にある睡眠・概日時計(体内時計)システムが注目されている。概日リズムと睡眠状態を測定するためには、体内のメラトニンホルモンの濃度変化を頻繁に測定し、高価な睡眠ポリグラフ検査(PSG)を実施する必要がある。ウェアラブルデバイスを利用すれば、睡眠と概日リズムを把握するために必要な生体データを容易に収集できるが、概日時計の位相などの必要なバイオマーカーについて間接的な情報しか得られないという限界がある。
こうした課題に対処するため、KAISTの脳・認知科学科(Department of Brain and Cognitive Sciences)のキム・デウォク(Kim Dae Wook)教授とミシガン大学数学科のダニエル・B・フォージャー(Daniel B. Forger)教授率いる研究チームは、スマートウォッチから収集した心拍数や活動量の時系列データに基づいて、概日時計の位相を正確に推定するフィルタリング技術を開発した。この技術は、脳の概日リズムを正確に表現するデジタルツインを利用して、概日リズムの乱れを推定する。
研究チームは、約800人のシフト勤務者を対象とした大規模な前向きコホート調査を通じて、この技術を検証した。その結果、概日リズムの乱れを示すデジタルバイオマーカーが、翌日の気分と、うつ病の代表的な症状である睡眠障害、食欲の変化、集中力の低下、希死念慮など6つの症状を予測できることが実証された。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部