韓国の科学技術情報通信部(MSIT)は、韓国科学技術院(KAIST)と西江大学校(Sogang University)の研究者が率いる共同研究チームが、世界で初めて、室温で量子力学的スピンポンピングを観察したと発表した。この研究はMSITの「基礎研究プロジェクト」の支援を受けており、研究成果は1月30日に科学誌Natureに発表された。
電子のスピンの流れにより発生するスピン流は、電流の代わりに電子デバイスを利用することで消費エネルギーを抑え、効率を向上できる可能性がある。スピン流を生成する方法の1つに、歳差運動(precession)により強磁性体から非磁性体へとスピン流が移動する「スピンポンピング」を利用する方法がある。しかし、従来の方法では、電子デバイスに利用するのに十分な強さのスピン流を生成することができなかった。
今回、研究チームは高品質な鉄-ロジウム磁性薄膜を作製し、この薄膜の独特の性質を利用して、大きなスピン流を観察することに成功した。特筆すべき点として、量子力学現象の大部分は極低温条件下でしか観察できないのに対し、今回の研究では、室温で量子力学的スピンポンピングを観察した。さらに、従来の古典的アプローチと比較して10倍以上のスピン流を生成する方法を示し、次世代電子デバイスの発展への道を開いている。
研究チームは「従来のスピントロニクス研究は古典的スピン力学を用いていたが、今回の研究はスピンの量子的性質を利用することの効果を実証し、実用化に向けたより大きな可能性を提示した点で意義がある」と述べている。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部