韓国科学技術院(KAIST)は3月31日、研究チームが哺乳類の網膜再生を実現する新たな治療技術を開発し、視力回復に成功したと発表した。本研究成果は学術誌Nature Communicationsに掲載された。
KAIST生物科学科のキム・ジンウー(Jin Woo Kim)教授(中央)、イ・ウンジョン(Eun Jung Lee)博士(右)と研究チームメンバー
(出典:KAIST)
視覚は人間の最も重要な感覚の一つであるが、世界中で3億人以上の人々がさまざまな網膜疾患により視力喪失の危険にさらされている。治療の進歩により、疾患の進行を遅らせることには成功しているが、失われた視力を回復させる効果的な治療法はこれまで開発されていなかった。これは、哺乳類の網膜が再生能力をほとんど持たないためである。
KAISTの生物科学科キム・ジンウー(Jin Woo Kim)教授率いる研究チームは、網膜の再生を妨げるタンパク質「PROX1」を標的とする抗体「CLZ001」を疾患モデルマウスに投与し、視力回復を誘導する新たな療法を開発した。本研究では、PROX1が損傷後にミュラーグリアと呼ばれる細胞に移行し、網膜再生を阻害することを突き止めた。研究チームはこの抗体でこのタンパク質を捕捉し、ミュラーグリア細胞を神経前駆細胞へ脱分化させることで、再生を促すことに成功した。
この抗体は、キム教授の研究室から派生したバイオベンチャー、セリエス(Celliaz)社が開発したものである。疾患モデルマウスへの投与では、神経再生が著しく促進され、さらに視細胞層の再生と視力の回復が6カ月以上持続した。現在有効な治療方法がないさまざまな変性網膜疾患への応用を目指し、2028年までの臨床試験開始を計画している。
本研究の筆頭著者であるセリエス社のイ・ウンジョン(Eun Jung Lee)博士は「CLZ001の最適化を完了し、前臨床試験へ移行しつつあります。治療法の確立により、治療の選択肢がない患者に新たな道を提供したいと考えています」と語った。本研究は、韓国研究財団(NRF)および韓国新薬開発財団(KDDF)の研究資金により行われた。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部