2025年05月
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mRNAワクチン制御因子を特定、より効果的な治療薬開発へ 韓国IBS

韓国の基礎科学研究院(IBS)は4月4日、研究者らがメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンの送達・安定性を制御する細胞因子を特定したと発表した。研究成果は学術誌Scienceに掲載された。

mRNAは、細胞に特定のタンパク質を合成させる設計図として遺伝性疾患やがんの治療に有望なツールだ。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)ワクチンに代表されるmRNA医薬品の効果を最大化するためには、細胞内での送達や安定性に関わる制御機構の理解が不可欠である。しかし、これまでその詳細な仕組みはほとんど解明されていなかった。

IBSのRNA研究センターのV・ナリー キム(V. Narry Kim)博士率いる研究チームは、CRISPRノックアウトスクリーニングを用いて、mRNAが細胞内でどのように扱われているかを網羅的に調査した。緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするmRNAを人工的に合成し、脂質ナノ粒子(LNP)に包んだ上で、対象となる1万9114種類の遺伝子を1つずつノックアウトした細胞に導入した。その発現の程度を比較することで、送達や分解に関与する因子を同定した。

今回明らかになったのは、細胞表面に存在するヘパラン硫酸(HSPG)が、LNPを引き寄せてmRNAの取り込みを助けているという点だ。次に、エンドソーム内を酸性化するV-ATPaseというプロトンポンプが、LNPを帯電させて膜を一時的に破壊し、mRNAを細胞質へ放出する役割を担っていることが判明した。さらに、この外来性のmRNAに反応してその分解を促す細胞防御因子TRIM25の存在が明らかとなった。TRIM25はmRNAに結合し、細胞内の監視機構を作動させるが、mRNAがN1-メチルシュードウリジン(m1Ψ)という化学修飾を受けている場合にはその結合を回避できることもわかった。

加えて、研究チームは、LNPがエンドソーム膜を破る際に放出されるプロトンイオンがTRIM25を局所的に活性化し、免疫シグナルとして働くことを初めて示した。本成果は、プロトンイオンが免疫シグナル分子として機能することを実証した初の研究であり、細胞が外来RNAからどのように自己防衛するかについての新しい知見をもたらすものだ。

キム博士は「細胞がmRNAワクチンにどう反応するかを理解することは、より効果的なRNA治療薬の開発の鍵となります。細胞の防御機構を回避しながら、エンドソーム系を効果的に活性化する方法を見つけることが重要です」と語った。

図1. ゲノムワイドなCRISPRノックアウトスクリーニングを用いてLNPベースのmRNAワクチンの細胞制御因子を同定

図2. mRNAワクチンを制御する重要な細胞内経路
(出典:いずれもIBS)

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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