韓国の基礎科学研究院(IBS)は4月14日、同院の研究者らが、脳の炎症と記憶喪失を関連付けるアルツハイマー病(AD)の重要な酵素を特定したと発表した。研究成果は学術誌Molecular Neurodegenerationに掲載された。
IBSの認知・社会性センター(CCS)の所長であるジャスティン・リー(Justin Lee)氏が主導する研究チームは、ADに関するこれまで知られていなかった酵素SIRT2を同定した。この研究は、脳内のアストロサイトが抑制性神経伝達物質GABAを過剰に産生することにより、認知機能低下にどのように寄与するかについての重要な洞察を与えるものである。
ADでは、アストロサイトが反応性アストロサイトになり、この病気の特徴であるアミロイドベータ(Aβ)プラークの存在に反応して行動が変化する。アストロサイトはAβプラークを除去しようとするが、このプロセスは有害な連鎖反応を引き起こす。すなわち、アストロサイトはオートファジーによってAβプラークを取り込み、尿素サイクルによってこれを分解する。しかし、この分解によりGABAが過剰に産生され、脳の活動が鈍化し、記憶障害につながる。加えて、この経路は、神経細胞の死や神経変性を引き起こす有毒な過酸化水素(H2O2)を副産物として生成する。
研究者らは、他の脳機能を妨げることなく、有害な影響を選択的にブロックするため、過剰なGABA産生に関与する酵素の同定を試みた。その結果、アルツハイマー病に罹患したアストロサイトにおけるGABA過剰産生に関与する重要な酵素としてSIRT2とALDH1A1が同定された。
SIRT2はGABA産生の最終段階に関与する一方、H2O2はそのプロセスの初期段階で産生される。したがって、SIRT2が欠如していても、細胞は継続的にH2O2を産生・放出する可能性がある。研究者らは、SIRT2とALDH1A1を下流の標的として同定することで、H2O2レベルに影響を与えることなくGABA産生を選択的に阻害できるようにした。
これは、GABAとH2O2の影響を切り分けて、神経変性における個々の役割を解明することを可能にする重要なブレイクスルーである。この研究成果はADにおける反応性アストロサイトの制御を目的とした、より精密な治療戦略の開発に道を開くものである。
Figure 1. Reactive astrocytes in Alzheimer's Disease uptake and break down amyloid plaques via autophagy, which causes upregulation of the urea cycle and putrescine-to-GABA production. This leads to elevated production of GABA and toxic H2O2, which inhibits neuronal signaling and causes neuronal death (Left). SIRT2 is the last enzyme in the GABA production pathway (Right). Inhibition of SIRT2 reduces GABA, rescuing neuronal inhibition and memory loss, but continues H2O2 production, contributing to neuronal death.
Figure 2. The putrescine-to-GABA production pathway
Figure 3. Increased SIRT2 protein (green) in the astrocytes (GFAP; magenta) around Aβ plaques (PyrPeg; white) in AD mouse model APP/PS1 TG (Top). Improved memory in AD mice after SIRT2 knockdown (Bottom).
(出典:いずれもIBS)
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部