韓国の基礎科学研究院(IBS)は6月5日、傘下のIBS血管研究センターの研究チームが首や顔の皮下にあるリンパ管を非侵襲的に刺激することで、脳脊髄液(CSF)の流れを大幅に改善できることを実証したと発表した。研究成果は学術誌Natureに掲載された。
脳は他の臓器に比べて老廃物の産生量が多く、アルツハイマー病やその他の神経変性疾患の重要な因子であるアミロイドβやタウタンパク質などの老廃物の効率的な除去が健康な脳機能にとって不可欠である。老廃物の除去はCSFにより行われるが、加齢とともにこの老廃物の排出速度が低下し、認知機能の低下につながることが知られている。
同センターはこれまでにも、CSFが頭蓋底の髄膜リンパ管や鼻咽頭リンパ叢を経て、深頸部リンパ節に排出される経路を特定していたが、これらのリンパ管は体表から深く、非侵襲的なアクセスが困難であり臨床応用は限定的だった。
コ・ゴヨン(Koh Gou Young)所長らが進めた今回の研究では、蛍光トレーサーを用いた遺伝子組み換えマウスやサルを対象に、顔・鼻・口蓋に分布するリンパネットワークを通じてCSFが浅頸部リンパ節に流れる新たな経路を発見した。高齢の動物ではこれらの経路の多くは退化していたが、顔面皮下のリンパ管は加齢による劣化が少なく、排出機能を維持していることも分かった。
研究チームはこの経路を利用するため、一定の圧力で皮膚を押したりなぞったりできる機械的刺激装置を開発し、高齢マウスに使用したところ、自然なリンパの動きを妨げることなく、CSF排出機能が若年レベルにまで回復させることに成功した。
主任研究員のジン・ホギョン(Jin Hokyung)氏は「顔面皮下のリンパ管を介して顎下リンパ節へつながる複数の経路が存在することが確認され、加齢や神経変性疾患によって低下したCSF排出機能を調節できる可能性があります」と語る。この技術は将来的に、高齢者や神経疾患患者の脳老廃物排出を促進する治療・予防用デバイスの開発につながる可能性があり、研究チームは現在、アルツハイマー病などの患者で、この排出システムの機能についての研究を進めている。
Figure 1. How brain fluid exits the skull and drains into neck lymph nodes
This diagram shows the pathways cerebrospinal fluid (CSF) takes as it flows from the brain's surface through facial lymphatic vessels and into lymph nodes in the neck.
Figure 2. Brain fluid drains through facial and neck lymphatics in monkeys
Images show how cerebrospinal fluid (CSF), labeled with a fluorescent tracer, travels through lymphatic vessels around the eyes, nasal area, hard palate, and neck following infusion into the brain.
Figure 3. Precise skin stimulation restores brain fluid drainage in aged mice
When researchers applied precise light mechanical stimulation to the skin of older mice, brain waste fluid (CSF) drained more efficiently into nearby lymph nodes and lymphatic vessels, as shown in these fluorescent images and supporting graphs.
(出典:いずれもIBS)
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部