韓国科学技術院(KAIST)は6月16日、KAISTと韓国の忠南大学の研究チームが従来何十回もの実験が必要だった薬物相互作用試験を効率化し1回で済むようになる可能性がある画期的な新手法「50-BOA」を開発したことを発表した。研究成果は学術誌Nature Communicationsに掲載された。
忠南大学薬学部のキム・サンギュム(Sang Kyum Kim)教授(左)KAISTおよびIBS のキム・ジェギョン(Jae Kyoung Kim)教授(右)と研究チームメンバーら
薬物相互作用の評価は、数十年にわたり阻害定数を推定するために、複数の濃度を用いた実験を繰り返す必要があった。この手法は、これまでに6万件以上の論文で採用されている。この課題解決のため、KAISTの数理科学科およびIBS生物医学数学グループのキム・ジェギョン(Jae Kyoung Kim)教授と忠南大学薬学部のキム・サンギュム(Sang Kyum Kim)教授が主導した研究チームは、より効率的な評価方法の開発を進めている。
今回開発された手法では、最適な1点の阻害剤濃度で得られるデータをもとに、従来よりも精度の高い阻害定数推定が可能であることを数学的に証明している。チームの解析によれば、従来の実験で用いられてきた測定点の多くは有用性が低く、誤差を増幅させていたことも発見した。50-BOAの導入により、実験の再現性と精度が大幅に向上し、実験にかかる労力も最大75%削減される見込みである。また、本手法はExcelベースのシンプルなユーザーインターフェースで使用可能な解析ツールとしてGitHubで無償提供されている。
50-BOAは、従来の複数の阻害剤濃度を用いる方法に代わり、単一の阻害剤濃度のみを用いることで、阻害定数の推定における精度と効率の両方を向上させる
(出典:いずれもKAIST)
このアプローチは、実験薬理学における長年の前提に疑問を投げかけるものであり、数学が生命科学を根本から設計し直せることを示している。本研究は、特に併用療法における潜在的な相互作用の評価において、より迅速で信頼性の高い医薬品開発への応用が期待される。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部