韓国科学技術院(KAIST)は8月26日、製造工程や設備の変更時でも再学習を必要とせずに欠陥を高精度に検出できる人工知能(AI)技術を開発したと発表した。

筆頭著者の博士課程学生のナ・ジヘ(Jihye Na)氏(左)とイ・ジェギル(Jae-Gil Lee)教授
近年、スマートファクトリーではAIによる欠陥検出システムが導入されているが、機械の入れ替えや温度・圧力・速度変化などで工程条件が変わると、既存モデルの性能が大幅に低下する課題があった。研究チームは、時間変動するデータに対応する「時系列ドメイン適応」技術を開発した。この技術を利用することで、条件が変化しても追加のラベル付けや再学習なしで安定した性能を維持できることを示した。
研究では、センサーデータを傾向・非傾向・頻度の3要素に分解して解析し、既存モデルの予測と新しいデータのクラスタリング結果を比較することで誤差を自動修正する手法を導入した。この技術はTA4LS(Time-series domain Adaptation for mitigating Label Shifts)と名付けられ、プラグインモジュールのように既存のAIシステムへ容易に組み込める点が特徴である。

図1. 研究チームが開発した「TA4LS」技術の概念図。新しいプロセスから得られたセンサーデータを、類似するパターンに基づいて傾向・非傾向・頻度といった要素ごとに分類する。これを既存モデルが予測する欠陥傾向と比較し、不一致を自動的に補正することで、プロセスが変化しても高い性能を維持できる
(出典:KAIST)
4種類のベンチマークデータセットを用いた実験では、既存手法に比べて最大9.42%の精度向上を達成した。特に欠陥発生パターンが大きく変化した場合でも自律的に補正し、高い検出性能を維持できることが確認された。この成果により、多品種少量生産が行われるスマートファクトリー環境での実用化が期待される。
研究を主導したイ・ジェギル(Jae-Gil Lee)教授は「この技術は製造業におけるAI導入の最大の障害であった再学習問題を解決します。実用化されれば、メンテナンスコスト削減や欠陥検出率の向上により、スマートファクトリーの普及に大きく貢献するでしょう」と述べた。
本研究は博士課程学生のナ・ジヘ(Jihye Na)氏を筆頭著者とし、LG AI Researchのカン・ジュンヒョク(Junhyeok Kang)研究員が共著者として参加した。研究は韓国の科学技術情報通信部と情報通信企画評価院(IITP)による支援事業の一環として実施され、研究成果は人工知能とデータ分野における世界最高峰の学術会議KDD(ACM SIGKDD Conference on Knowledge Discovery and Data Mining)で発表された。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部