2021年5月11日 小岩井忠道(科学記者)
英教育誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)」は4月21日、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」達成に対する貢献度を評価して世界の大学を順位付けした「インパクト・ランキング2021」を発表した。マンチェスター大学が英国の大学として初めて1位となったが、10位内にオーストラリアの4大学が入るなど、アジア・太平洋地域の国々が高く評価されているのが目立つ。
順位 | 大学 | 国・地域 |
---|---|---|
1 | マンチェスター大学 | 英国 |
2 | シドニー大学 | オーストラリア |
3 | ロイヤルメルボルン工科大学 | オーストラリア |
4 | ラ・トローブ大学 | オーストラリア |
5 | クイーンズ大学 | カナダ |
6 | ウーロンゴン大学 | オーストラリア |
6 | オールボー大学 | デンマーク |
8 | ユニバーシティ・カレッジ・コーク | アイルランド |
9 | アリゾナ州立大学テンペ校 | 米国 |
9 | オークランド大学 | ニュージーランド |
SDGsは、2015年9月の国連総会で採択された具体的な行動指針で、世界中のあらゆる人々、場所から「貧困を終わらせる」「飢餓をなくす」など17項目の目標が掲げられている。THEの「インパクト・ランキング」は、「研究」、「スチュワードシップ」(教員、学生など預かった資産の管理責任)、「アウトリーチ」(地域・国内・国際社会と連携した活動)、「教育」(十分なスキルを持った人材の育成)という4つの評価項目で、SDGsに対する貢献度を評価している。
シドニー大学
「インパクト・ランキング2021」では、シドニー大学(2位)、ロイヤルメルボルン工科大学(3位)、ラ・トローブ大学(4位)、ウーロンゴン大学(6位)と、上位10大学中、4大学をオーストラリアが占めた。THEは、こうした総合ランキングに加え、SDGsが掲げる17目標ごとの評価結果も示している。シドニー大学は、6番目のSDGs目標「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」でトップ、ラ・トローブ大学も15番目の目標「陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、土地の劣化の阻止・回復および生物多様性の損失を阻止する」でトップの評価も得ている。
さらに総合順位で12位のニューカッスル大学も、17番目のSDGs目標「持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する」でトップ、総合順位57位のキャンベラ大学も10番目の目標「各国内及び各国間の不平等を是正する」でトップの評価をそれぞれ得ている。オーストラリアの大学が高い評価を得たことについてTHEは「実社会でも影響力の大きさを示した」としている。
太平洋地域では、ニュージーランドからもオークランド大学が総合評価で9位に入ったほか、マッセ―大学が37位、オタゴ大学が57位、オークランド工科大学が76位に入った。総合順位100位までに17大学が入ったオーストラリアと合わせると、21大学を太平洋地域の両国で占める。
一方、東南アジア諸国の大学も高い評価を得ているのが目を引く。まずタイのチュラーロンコーン大学が23位。続いてマレーシアから39位のマレーシアサインズ大学、タイから54位のモンクット王工科大学トンブリ校が入り、インドネシアからも64位にセプルー・ノペンバー工科大学、79位にハサヌディン大学、83位にガジャ・マダ大学、85位にインドネシア大学の4大学が100位以内に入った。
順位 | 大学 | 国・地域 |
---|---|---|
12 | ニューカッスル大学 | オーストラリア |
17 | ウエスタンシドニー大学 | オーストラリア |
18 | モナシュ大学 | オーストラリア |
23 | チュラーロンコーン大学 | タイ |
26 | サンシャイン・コースト大学 | オーストラリア |
30 | 延世大学ソウルキャンパス | 韓国 |
37 | マッセー大学 | ニュージーランド |
38 | グリフィス大学 | オーストラリア |
39 | マレーシアサインズ大学 | マレーシア |
43 | クイーンズランド工科大学 | オーストラリア |
54 | オーストラリアンカソリック大学 | オーストラリア |
54 | モンクット王工科大学トンブリ校 | タイ |
54 | 慶北大学 | 韓国 |
57 | キャンベラ大学 | オーストラリア |
57 | オタゴ大学 | ニュージーランド |
64 | セプルー・ノペンバー工科大学 | インドネシア |
76 | オークランド工科大学 | ニュージーランド |
76 | タスマニア大学 | オーストラリア |
79 | ディーキン大学 | オーストラリア |
79 | ハサヌディン大学 | インドネシア |
81 | アムリータ・ビッシュワ・ビドゥヤピータム大学 | インド |
82 | マッコーリー大学 | オーストラリア |
83 | ガジャ・マダ大学 | インドネシア |
85 | インドネシア大学 | インドネシア |
91 | ジェームズクック大学 | オーストラリア |
94 | 上海大学 | 中国 |
96 | ニューサウスウェールズ大学 | オーストラリア |
英国からは1位のマンチェスター大学をはじめ100位内に20大学、カナダからは5位のクイーンズ大学を含む15大学が100位内に入り、オーストラリアを加えた3国が全体的に高いパフォーマンスを示すゴールデントライアングル(黄金の三角地帯)となっている、とTHEは評価している。
THEは、教育、研究、論文引用の影響度、国際性、企業からの収入の五つを評価指標とした「世界大学ランキング」をはじめ、さまざまな大学ランキングを毎年公表している。「インパクト・ランキング」は今回が3回目。評価に必要なデータをTHEに提供した大学が評価対象となるが、今回は昨年に比べ評価対象大学は約400増え、98カ国・地域1,240大学となった。評価結果は「世界大学ランキング」とはだいぶ異なる。「世界大学ランキング」で上位を占める大学がとびぬけて多い米国は100位内に9大学が入ったものの、躍進が続く中国は94位の上海大学のみ。昨年3大学が入っていた日本も今回はゼロで、総合順位がついた1,115大学の中に入った数が73大学と、75大学のロシアに次いで多い、とだけTHEの発表には記されている。