【AsianScientist】カンガルーケアで父親と幼児は強い絆-豪州の研究者ら報告

オーストラリアと英国の研究者らは、父親はカンガルーケアと呼ばれる早期接触を通じ、自分の幼い子供と強い絆を築くことができると報告した。

母親と新生児の早期接触の利点は長い間知られていた。新しい研究から、父親と子供の間に同じような接触があれば、父親と赤ちゃんとの絆を作る役に立つことが証明された。家族構成の変化のほか、シングル親家庭や同性カップルの増加を考えると、この調査結果はきわめて重要性が高い。

筆頭著者である南オーストラリア大学のソフィア・ドン (Sophia Dong) さんは父親がカンガルーケアを行うことで感じるメリットについて探索的研究を行い、Journal of Clinical Nursing 誌に発表した。カンガルーケアとは親と子供の早期接触を意味する言葉であり、カンガルーの子供が母親の袋の中で感じる安全と安心を真似たものである。

正看護師であり修士課程の学生であるドンさんは、Asian Scientist Magazine 誌の取材に対し、カンガルーケアが母親と子供の両方に有益であることを示すデータはたくさんあると述べた。しかし、家族構成や親との関係は年々変化しているため、父親のカンガルーケアが親子の絆を育む効果に関するデータはほとんどない。

「通常、ここ(オーストラリア)では、子供の世話をするのはほとんどが母親であり、そのため、母子の絆はとても密接です。その一方、父親は一家の稼ぎ手としての役割を果たすだけでした。父親は子供に直接関与していません。父親はただ見ているだけで、積極的に参加することはありませんでした」

ドンさんはこのように説明する。

しかし、そのパターンは急激に変化してきている。オーストラリアでは、シングル親家庭や同性カップル家庭に対する認知の高まりとともに、有給育児休暇政策が、父親業や乳幼児の発達における父親の役割という概念に疑問を投げかけているためである。

2005 年に中国からオーストラリアに移住したドンさんは、男性の育児参加を取り巻く文化は、彼女の生まれた国とは異なっていると語った。

「私は中国の新生児病棟で働いていました。そこでは、母親がゴールデンマンスを過ごす間、父親が子供たちにカンガルー ケアを行うプログラムがありました」

ゴールデンマンスとは出産後約 40 日間、母親が休息して回復する期間を指す。その間、子供の世話をするのは助産師、父親、または他の親戚であり、アジアの多くの地域で習慣となっている。

ドンさんは中国のゴールデンマンスで目撃した親子の大きな絆に影響を受け、南オーストラリアの北アデレードに所在する母子医療センターの新生児集中治療室で、父親が子供にカンガルーケアを実践する際に経験するメリットについての研究に進むようになった。

研究の一環として、ドンさんは早産児を持つ 10 人の父親に連絡を取り、毎日少なくとも 1 時間、赤ちゃんを裸の胸に押し付けて抱きしめるように依頼した。その後、乳児の退院近くの時期にフォローアップのインタビューが実施された。ドンさんはカンガルーケアを行う父親の経験と考えを記録した。

インタビューに対して、大半の父親は最初から最後まで非常に前向きな経験であったと回答した。最初は、子供が新生児集中治療室に入院したことから不安と緊張という感情を持っていても、カンガルーケアを実践した父親は落ち着いてくる。これは注目に値する。

ドンさんによると、ある父親は、新生児の娘ととても親密につながることができ、この研究に参加しなければ想像もしなかったであろう喜びを表した。同様の経験は論文にも記載されており、一部の父親は、子供を抱いているときに「落ち着いた」と感じ、別の父親は、子供を抱くことは「無言の愛の言葉」のように感じたという。

「(探索的研究) は、父親によるカンガルーケアの利点を本当に浮き彫りにしています。これは、父親としての役割を考え直すのに役立つと思います」とドンさん。

ドンさんは今後、研究範囲を広げて、カンガルーケアが父子関係ならびに子供の健康および発達に与える影響に関するデータをもっと収集したいと考えている。

(2022年08月23日公開)

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