2023年 9月 29日 JSTアジア・太平洋総合研究センター
科学技術振興機構(JST)アジア・太平洋総合研究センターでは、調査報告書『オーストラリアにおける科学技術イノベーション政策および研究開発動向に関する調査報告書』を公開しました。以下よりダウンロードいただけますので、ご覧ください。
以下よりダウンロードいただけますので、ご覧ください。
https://spap.jst.go.jp/investigation/report_2022.html#fy22_rr08
本調査は、我が国の戦略的なパートナーであるオーストラリアとの科学技術イノベーション(STI)協力の拡大・深化を視野に入れた基盤的調査を目的とし、オーストラリアの科学技術やイノベーション状況の概観整理、STIに関連する組織や制度の把握、新旧政権における科学技術イノベーション政策の動向整理、クリティカル・テクノロジー(重要技術)の概要整理、STIに係る海外との関係性等を把握し、事実関係を収集・整理・概観するものである。
第1章では、オーストラリアの基本情報および経済動向を整理したうえで、STIに関連するインプット、アウトプットおよびアウトカムについて情報を整理した。インプットについては、研究開発費および研究資源に着目し、それらの特徴や増加状況等を確認した。アウトプットについては、論文および特許に着目し、論文数や特許数等の量の観点および引用数等のインパクトの観点から情報を整理した。また、アウトカムについては、国としての競争力、研究・教育面の競争力および企業・産業面の競争力の観点から、グローバル・イノベーション・インデックス、ノーベル賞、大学ランキング、有力テクノロジー企業、ユニコーン・スタートアップ企業等に関する情報を整理し、オーストラリアのSTI領域における実態およびプレゼンスの強さを把握した。
第2章では、オーストラリアのSTIに関連する組織や制度を把握し、STIに関連する主要なステークホルダーの全体像を整理した。また、政策決定に関与する機関、助成機関、研究機関等それぞれについて、代表的な機関の情報を整理した。政策決定機関としては、産業科学資源省、教育省および国防省について、それぞれのSTIとの関連性やSTI領域における目的について触れた。助成機関としては、オーストラリア研究会議、国立保健医療研究会議、国防科学技術グループ等に触れ、それぞれの概要、特徴、ファンディング動向等を整理し、代表的なプログラムの紹介を行った。また、研究機関等については、公的研究機関であるオーストラリア連邦科学産業研究機構やオーストラリア原子力科学技術機構、主要な大学および国内大学のネットワークを紹介した。加えて、分野別にトップ研究者の所属する大学や代表的な研究者を紹介した。後段では、政府が昨今力を入れるコラボレーションにも着目し、研究プラットフォームや研究拠点に関する情報を整理し、関連プログラムや資金提供を受けたプロジェクト等を整理した。
第3章では、新旧政権におけるSTI政策の動向を整理した。これまでの主なSTI政策を整理したうえで、2015年に発表された国家イノベーション・科学アジェンダ(NISA)を軸に、掲げられていた目標と現状を比較し、目標を着実に実現するオーストラリアの姿を確認した。また、新政権に関するSTI政策は2023年9月までに発表される予定であり、公開されている情報は限定的ではあるが、これまでのプレスリリースや政府発言、STI関係者へのインタビュー等を通じて推測される政策の方向性を整理した。オーストラリアは、STI政策において国家の有する強みや解決すべき重要なことに注力することを基本スタンスとしてきた。そのため新しいSTI政策も同じ方向性に従うことが想定される。具体的には、社会課題に関連する環境やエネルギー、強みを有する医療やバイオ、外貨を稼ぎ地方での雇用を作る資源や農業等は引き続き重要視されると考えられる。また、国益にとって重要な技術の修正や絞り込み等の動きも想定される。
第4章では、2022年8月に発表された国益に関わる7つの重要技術の内容を把握し、関連する政策を整理し、当該技術に強みを有する研究機関や主要な研究者の情報を整理した。重要技術は、国防や安全保障に関わるものも多く、政府は重要技術の発展に必要な研究開発や人材育成、インフラ整備等を進めるための新しいイニシアチブを検討し始めている。重要かつセンシティブな技術であるため、関連技術については、誰と研究開発するかが重要になり、第5章で触れる他国との関係性が重要になる。
第5章では、多国間連携スキームであるQUADおよびAUKUSの概要に触れ、STIに関連する情報を整理した。また、オーストラリアにとって重要性の高い中国やインドについては二国間の連携状況を整理した。オーストラリアは軍事・防衛面では過去からアメリカやイギリスと連携してきたが、経済・貿易面では中国と強い関係性を築いてきた。研究における連携では、従来はアメリカおよびイギリスのプレゼンスが強かったが、共著数では中国がイギリスを超え、アメリカをも抜かす勢いである。しかし、上述の重要技術等の議論が進むなか、研究連携の環境が変わる可能性がある。中国との連携に制約が生じる中、オーストラリア政府はインドと経済・軍事・サイバーセキュリティ等において、連携を多面的かつ積極的に進めようとしている。具体的には、友好国であるインドと重要技術や新興技術に関するセンターオブエクセレンス(COE)を立ち上げ、新たな研究連携の在り方を模索している。
第6章では、我が国の戦略的なパートナーであるオーストラリアとのSTI協力の拡大・深化を視野に入れ、考え得る連携強化策を整理した。日本はオーストラリアと政治面・経済面の両面において、良好な関係を築いており、双方が様々な領域において重要なパートナーであると認識している。これまでもSTI面における連携はあったが、安全保障や社会課題等、対応すべきアジェンダが現れる中、日本とオーストラリアは連携を再強化する時機を迎えていると考えられる。調査結果も踏まえ、連携強化に向けたスキーム案および連携領域案を導出し、連携スキームについては多面的プログラムによる連携、現場レベルに留まらない政治レベルでの合意、投資を伴う拠点設置、産学官連携プラットフォームによる多様なステークホルダーの巻き込み等を提示した。また、①日豪共同出資プール、②日豪産学官連携プラットフォーム、③連携コーディネーター、④日豪COE、⑤日豪共同研究拠点、⑥共同学術会議・シンポジウム、⑦研究者人材の交流、⑧研究者の卵・若手研究者支援の8つの施策アイデアを整理した。連携領域については、日豪の連携余地が期待される領域を整理し、連携領域例として①農業、②エネルギー・環境、③先進製造、④ロボット、⑤医療・バイオ、⑥ PNT(測位・航法・計時)技術を紹介した。