豪ASEAN外交関係50周年、新たな連携へむけて

2024年5月28日 斎藤 至(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー)

2024年、オーストラリア(豪州)は東南アジア諸国連合(ASEAN)と対話パートナーシップを結んで50周年の節目を迎える1。地理的にも近接した両地域の関係は、通商にとどまらず人材交流や研究開発協力に及んできた。ここでは科学技術を中心とした関係を各種の基礎データから整理し、近年の動向を踏まえて今後を展望する。

豪ASEAN特別サミットに集う豪首相とASEAN加盟国の首脳たち (2024年3月6日、メルボルン)
出典:豪政府

ASEAN諸国から世界への留学生数が総じて増加傾向にあるなかで、オーストラリアはその受け入れ先として大きな存在感を維持している(関連記事[1]調査1)。最新のグローバルな比較でも、2016年頃から東アジア諸国への留学生が増えるなかで、オーストラリアは継続的に最も多くの留学生を受け入れている主要国である。東南アジア地域に最も近い英語圏であること、また他の主要国に比べて少数ながら、メルボルン大学やクィーンズランド大学など、世界トップクラスの高等教育機関を有することが背景にあると推察される。加えて、オーストラリアは「ASEANのための奨学金(Australia for ASEAN scholarships)」制度を恒常的に設け、将来のASEAN加盟国出身リーダーの育成にも貢献する。ASEAN加盟国と東ティモールの学生むけに「海事」「コネクティビティ」「経済」「持続可能な開発協力」を優先分野として毎年数十名(2025年度募集では75名)に支給している2。オーストラリア国立大学(ANU)や各州立大学などトップ公立大学を受入先に指定している。

図 各主要国のASEANからの留学生受け入れ数

出典:関連記事[1]参照。元図の典拠はUIS Statistics、中国教育部

一方、基礎研究の成果である論文の共著関係で見たとき、オーストラリアはどのような国と共著報数が多いのか。アメリカ・イギリス・中国・ドイツとの共著関係が10年間一貫して多く、日本やASEAN諸国はほとんど上位に位置しない(関連記事[3] 第3章)。視点を変えて、オーストラリアとASEAN主要6カ国との国際共著論文では、どのような分野でトップ論文が多いのかを見てみよう。総じて基礎医学・臨床医学が多くなる傾向はあるものの、生態学、エネルギー・燃料などを中心に、豊富な自然資源を活かし研究する分野でトップ論文が多い傾向にある(関連記事[1] 調査2)。

表 論文データから見たオーストラリアとの国際共同研究分野

出典:関連記事[1]をもとにAPRC作成

国際連携では、中国・インドとの二国間協働パートナーシップが結ばれ、特にインドとは2017年頃から本格化しているQuad(クアッド)などの地域枠組みも相まって関係を緊密化してきた(関連記事[2])。対して、ASEAN加盟国とは2022年6月、前年の第1回サミットを発展させる旗艦イニシアティブとしてAus4ASEAN Futuresイニシアティブ(ASEANのための豪州未来イニシアティブ)3が調印され、通商関係とコネクティビティの分野で連携が進んできた。更に、2024年3月4日~6日に豪メルボルンで開かれた特別サミットでは、グローバル科学技術外交ファンド(GSTDF)4の募集開始が発表された。

GSTDFは国際共同研究の活発化に際して多角的かつ柔軟な運用を可能にする制度として新設された。オーストラリアの研究機関が自国の科学技術および経済の発展とともに、パートナー国のポテンシャルを支援することが目的である。優先的パートナー国はASEAN主要6カ国とブラジル・ニュージーランド・韓国・日本の10カ国、優先分野は「先端材料」「AI」「量子計算」「水素製造」「RNA・mRNAワクチンとそれを用いた療法」の5つとなっている。

豪連邦政府がGSTDFで掲げる優先5分野は、今後のパンデミック対応を含め、世界の主要国が研究開発競争を繰り広げる分野の大半を含む。現時点の研究成果に限れば、主要国の後塵を拝するかに見えるが、豪州や東南アジアも、重要鉱物などの稀少資源や専門卓越人材を有する面で、優位性を有する分野も多い。これらをインプットとして巧みに活用し、地域間の共同研究を活発化させることで、世界に先駆ける科学技術イノベーションが生まれる可能性も高まるものと期待できよう。

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