既に公式のこととなっているが、昨年は世界史上最も暖かい年であり、産業革命以前の水準を1.5℃上回った最初の年であった。これは、これ以上の温暖化を抑制するには遅すぎるということではないが、行動が遅れれば遅れるほど、より高い目標が求められる。
ニュージーランドも例外ではない。気候変動委員会は、同国の2050年気候目標を初めて見直したところ、現在の気候政策は、もはや気温上昇を1.5℃に抑えるという世界的な取り組みに見合うほど十分なものではないと判断した。
ニュージーランドの現在の2050年目標には2つの要素がある。家畜からのメタン排出量を 2017年水準より 24% から 47% 削減することと、その他のすべての温室効果ガスについては排出量をネットゼロにすることである。しかし、委員会は目標を高めるため、3つの主要な勧告を行っている。
委員会は、これらの変更によりニュージーランドは「すべてのガスについてネットゼロ」に近づくだろうと述べている。パリ協定の目標を達成するために必要なことである。
2050年目標見直しは、間もなく辞任する委員会の初代委員長、ロッド・カー (Rod Carr) 氏の最後の試みだった。カー氏は気候変動対策について熱心であった。議会での締めくくりの言葉で、カー氏は次のように述べた。
「恒久的な炭素回収・貯蔵を行わずに化石燃料の屋外燃焼を推進し続ける人々は、私の見解では、人道に対する罪を犯している」
2050年目標はニュージーランドの気候対応の重要な要素である。2019年の気候変動対応(ゼロカーボン)改正法に基づき、委員会は5年ごとに2050年目標を見直すことが義務となっている。
変更を勧告するための基準は高い。委員会は9つの主要分野を検討し、異なる目標を勧告する根拠となる「重要な」進展を見つけなければならない。
委員会は、現在の目標が2019年に設定されて以来、3つの重要な変化があったことを発見した。
現在の他国の政策、誓約、目標は気温上昇を1.5℃に抑えるのに十分ではないものの、多くの国は現在、ニュージーランドよりもレベルの高い目標を掲げている。
オーストラリア、日本、米国、カナダ、EU、アイルランドはすべて2021年に完全なネットゼロ目標を採用した。フィンランドとドイツはネットマイナス目標を掲げているか、検討中である。生物起源のメタン排出量が多い国の中には、完全なネットゼロ目標を掲げている国がいくつかある。
気候への影響は、2019年に目標が設定されたときに科学界が理解していたよりも早く現われており、さらに深刻である。
気候変動のリスクと影響の増大は、世代間の公平性に影響を及ぼす。行動を遅らせると、コストとリスクが将来の世代に移る。
委員会の報告書では、ニュージーランドの気候目標達成は、商業目的での外来種の植林に大きく依存していることも調査されている。これは、気候アクション・トラッカーがニュージーランドの対応を非常に不十分であり、4℃上昇の世界を作り出してしまうと評価した理由の1つとなっている。
樹木に含まれる炭素は生物圏の一部であり、化石炭素のように永久に貯蔵されることはない。一例を挙げると、2023年のサイクロン・ガブリエルは気候変動によって強度を増し、森林、農場、インフラに被害を与え、この地域では林業に関する社会的ライセンスは取り消された。
委員会の作業は法律で厳密に規定されている。委員会は、地球温暖化を1.5℃に抑える課題を、1人当たりの排出量の平等、国家の能力、過去の温暖化に対する責任、すべての人々の持続可能な開発の権利という4つの方法に分けることを考えた。
ニュージーランドの現在の目標はこれらの基準のいずれにも達していないが、委員会は、新しい目標は少なくとも「国家の能力」基準を満たし、実現可能で受け入れられるだろうと述べている。しかし、それでもニュージーランドは今世紀の地球温暖化において、本来の2倍から3倍温暖化を加速させていると考えられている。
委員会の評価は、GWP100(現在の国連基準)などといった地球温暖化指標とは無関係である。その代わり、委員会はニュージーランドの過去と将来の気温上昇への寄与を実際に計算した。1850年と1990年は今まで一般的に使用されてきた基準年であるが、どちらも同様の結果を表している。
ニュージーランド政府は現在、生物起源メタンに関する委員会の勧告に特に反対している。昨年、政府は別の諮問パネルを任命した。このパネルは、農業メタン排出が地球に「さらなる温暖化を起こさない」という目標を提示した。
このグラフは、現在の2050年目標に基づいた場合にニュージーランド (1850~2100年) の排出量が温暖化に及ぼす影響を示している
(気候変動委員会、CC BY-SA)
しかし、委員会はこの考えを却下した。ニュージーランドの他の目標が大幅に強化されない限り、パリ協定やニュージーランドの気候法と矛盾するというのである。
奇妙な気候外交の中で、国際航空・船舶の排出量は当初の2050年目標から除外された。しかし、委員会が指摘しているように、これらは間違いなく地球温暖化に影響を与えており、パリ協定の温度目標の対象となっている。
他の国々もこの分野で動いており、国際民間航空も海事機関も2050年ネットゼロという目標を設定している。ニュージーランド航空と世界的海運大手であるマースクは、航空と船舶の排出量を2050年目標に含めることを支持しており、委員会は複数の異なる方法を使えば目標は達成可能であると考えている。
ニュージーランドの海運と航空輸送への依存は課題となっている。委員会は、これらの業界からの合計排出量を6.7メガトンと見積もっている。これはCO2総排出量の20%に相当し、すべての産業又は乗用車の排出量とほぼ等しい。特に航空業界は成長を考えているが、これに対処しなければ、ニュージーランドでも世界でも1.5℃に留めるための炭素予算を超過する。
委員会は、国際航空・海運業界が作成した「ネットゼロへの道筋」を引用して、これらの業界からの排出をニュージーランドの2050年改訂目標に含めれば、達成可能であるという結論を出している。これらの業界は必ずしも排出量取引制度に加入する必要はないが、航空・海運業界は一般売上税、燃料税、及び炭素税の対象とならないという現状は、他の経済活動分野と比べて不公平である。
(2025年2月6日公開)