ニュージーランド北島には数多くの地熱系があり、中には1000メガワット(MW)の電力を生成するために利用されているものもある。しかし、もっと深いところには、さらに大きな可能性が存在しているかもしれない。
GNS Science(ニュージーランド地質核科学研究所)が率いた5年間の実現可能性調査を経て、現在、政府は、6000万ニュージーランドドルを投資して「超臨界」地熱エネルギーと呼ばれるものを探査しようとしている。
超臨界地熱は、従来の地熱源よりも高温であり、もっと深いところに存在している地熱源を使う。超臨界地熱の熱源となるのは、マグマに近い(ただしマグマ内ではない)ところにある岩石であり、375°Cから500°Cの熱を持つ。
通常の地熱発電の水は比較的温度が低く200℃から300℃であるが、超臨界地熱発電の場合、水の深度と温度を考えると、電力に変換できるエネルギーは3倍から7倍になる。
投資は段階的に行われる。まずは超深井戸の設計を目的として500万ドルを国際コンサルタントに提供し、その後、資金を提供して最大で深度6キロメートルまで掘削する予定である。コンサルティングは進行中であり、シェーン・ジョーンズ資源相は、マオリ族の土地所有者に協力を求めたいと考えている。
ニュージーランドはすでに1000MWの電力を従来型の地熱源から生産している
(Shutterstock/Chrispo)
GNS Scienceは、北島中央部にある地熱源から約3500MW程度の発電ができると計算しているが、実際にそこまでたどり着くのは困難で費用がかかると考えられる。エネルギーコンサルティング会社であるCastalia社は、開発に値する電気量を見積ったところ、2037年以降で1300MWから2000MWの間と考えている。
これはかなりの余剰電力となる。加えて、太陽光や風力を使う発電は変動が大きいが、最大発電量時間帯と最低発電量時間帯の差を減らすことができる。太陽光や風力は、将来、発電量に占める割合が拡大すると予想されている。超臨界地熱発電は費用対効果が高いので、その技術は真剣に検討する価値があるという報告がある。だが、このような主張は精査の対象とすべきである。
歴代の政府は、マナポウリ発電所、2000年代初頭の石油探査、初期の地熱掘削、オンスロー湖の揚水発電計画の調査など、主要な国営エネルギープロジェクトを支援してきた。明らかに、エネルギー安全保障の必要性がこれらの投資の動機となっている。
しかし、ニュージーランドには健全な地熱産業がある。過去20年間、地熱会社は数百の新しい井戸と新しい発電所に20億ドルを投資してきた。この業界はすでに井戸を掘削してそこから利益を得る方法を熟知している。では、なぜ今になって政府が介入するのだろうか?
実際には、超臨界地熱の探査と開発は、研究、技術、経済の面でさまざまなリスクに直面する。民間企業はそれらのリスクを単独で負うことは望まないため、実現可能性を確立することが政府の介入のきっかけとなった。
超臨界地熱が直面するかもしれない問題の1つとして、深部の掘削で多くの高温岩石が見つかるかもしれないが、水はあまり見つからない可能性が挙げられる。日本及びイタリアで行われた掘削実験では、500°Cに達する可能性が示されてはいるが、どちらの場合も、高温のため岩石は高い延性 (柔軟で伸びやすい) を持ち、水が流れるために必要な隙間を開けておくことはできなかった。
しかし、アイスランドでの実験は異なっており、2本の井戸で 400°C を超える水が見つかった。なぜか?現時点でははっきりしていないが、アイスランドに特殊な岩石 (特に延性が低い玄武岩) があるため、又はアイスランドが地殻変動によって急速に引き伸ばされているためと考えられる。ニュージーランドは玄武岩を当て込むことはできないが、急速な地殻変動は進行している。
深部掘削では、超臨界状態で浸透性 (水が流れる隙間) があるかどうかという重要な仮説を検証する。その仮説を確認するには、深部掘削だけが唯一の方法である。
浸透性がなければ、政府は投資を断念するか、浸透性を生み出す方法を探ることになる。一つの選択肢として多段式水圧破砕法(フラッキング)がある。これは、海外の北米シェールガス産業で効果を上げており、また、最近は、米国の地熱系でも実証されている。
たとえ浸透性があっても、アイスランドの超臨界井で生産された水は非常に腐食性が高い。その場合、井戸に冷水を注入して腐食性流体を抑制するのがよい方法であろう。注入された水は熱くなり、上部の地熱系に昇り、熱は上方に流れる。
しかし、水の注入もフラッキングも地震を引き起こす可能性があり、おそらく毎年マグニチュード4~5、数十年に一度はマグニチュード5~6の地震が発生すると考えられる。これは2017年に韓国の浦項で発生した。水の注入がマグニチュード5.5の地震を引き起こし、その結果、地熱プロジェクトは中止された。
ただし、注入によって起こると考えられる地震が発生していない他の多くの地熱プロジェクトもある。
もう1つのリスクは経済面に関するものである。超臨界地熱は技術的にはいつか実現可能になるかもしれない。だが、コスト面で他の発電技術に勝てなければ、ニュージーランドでの活用は限られることとなろう。
世界中で、再生可能エネルギー産業では、混乱した状態が続いている。実用規模のバッテリーストレージと太陽光発電のイノベーションが、かつてないコスト削減を作り出したためである。
しかし、サプライチェーンは主に海外にあり、そのほとんどは中国に集中しているため、エネルギー安全保障の計算に地政学的な複雑性が加わる。国産ソリューションがあれば強みとなる。
とは言うものの、国際再生可能エネルギー機関によると、2010年から2023年にかけて、太陽光発電モジュールのコストは89%、バッテリーモジュールのコストは86%低下する。太陽光発電のコストは、建設量が倍増するたびに33%低下する。バッテリーコストが低下すれば、最大発電量時間帯と最低発電量時間帯を持ち、断続的な太陽光発電と風力発電を大規模に導入して、日々平滑化することができる。
このようにコスト状況が変化するため、エネルギーへの投資は財政的に不安定なものとなる。コスト低下が永遠に続くことはないであろうが、低下がいつ止まるかは分からない。一方、地熱発電コストは長い間変化していない。10億ドルもかかるならば、地熱投資はすぐに競争力を失うであろう。
これらあらゆる問題点があるにしても、ニュージーランド政府が科学とイノベーションに賭けているという前向きな兆候を見過ごすべきではない。地下6キロメートルの深さで起こっていることを知るのは心躍ることであろう。そして、計画はマグマを掘削することではないが、アイスランドで起こったような偶発的な衝突があれば、科学的に驚くべき結果となるだろう。
最後に、エネルギー安全保障は長期的に真剣に取り組む価値がある。超臨界地熱は冬の電力不足に対する当面の脆弱性を解決することはできないが、2040年代に同様の問題があってもそれを回避するのに役立つであろう。
(2025年4月14日公開)