【The Conversation】 国際プラスチック条約は頓挫した―何が問題だったのか

今週、プラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際条約の策定に向けた話し合いが行われていたが、膠着状態に陥り、逆戻りしてしまった。国連政府間交渉委員会(The United Nations Intergovernmental Negotiating Committee meeting)はスイスのジュネーブで会議を開いていたが、タイムリミットが来てしまった。合意に至らないまま、今夜、閉会されることとなろう。

実に残念な結果である。筆者は「効果的なプラスチック条約のための科学者連合」の一員として、プラスチック汚染を真に抑制する措置を期待していた。連合は、処分だけでなくライフサイクル全体を考慮すること、プラスチック生産削減目標を設定すること、そして人体へのリスクを軽減するために有害な添加物の使用を規制することなどを優先事項としている。

残念ながら、既得権益が交渉を乗っ取ったのである。主要な石油化学製品メーカーを抱える国々はバージンプラスチックの生産量制限に抵抗した。以前にも同じことがあった。 タバコ、PFAS、アスベスト、及び気候変動といった問題について、正当な科学に基づく有害性に対する懸念は、大きな既得権益により何度も過小評価されてきた

プラスチック、特に現在、人々の体内に侵入しつつあるマイクロプラスチックやナノプラスチックに関しては、意識して早期に行動すれば、大きな違いを生むことができる。しかし、我々消費者自身が行動を起こせば曝露を最小限に抑え、廃棄物を削減することができる。我々が協力して行動を起こせば、プラスチック製造産業界に力強いメッセージを送ることもできる。

この混乱をリサイクルだけで解決することはできない
(科学者連合)

なぜプラスチック条約が必要か?

野心的なプラスチック条約は、環境と人々の健康によい影響を永続的に与えることができる。

1987年に採択されたモントリオール議定書は、オゾン層を破壊するエアロゾルの段階的廃止を目的としており、人々が達成できるものについて示す好例となっている。

一方、温室効果ガス排出量削減を目的とした京都議定書は、当初、あまり意欲的なものではなかった。署名国が少なく、その効果は国によって異なっていた。プラスチック条約も同様の岐路に立っている。

プラスチック条約は、またとない機会となる。有害な添加物を開示させ、新素材については使用前に安全性を証明させ、そして生産量の削減やプラスチック化学の簡素化といった上流段階の対策を優先させることができる。

変更点の分析

有望な条約案は2年間の交渉を経て、12月に周知された。それが最高レベル会談の第1週の終わりに変更され、第2週の半ばには半分に削減された。争点となった項目はすべて削除された。

「目標」「化学物質」「有害」「段階的廃止」といった言葉は消え、人の健康に関する第19条は完全に削除された。廃棄物管理に関する条文からは、国民の意識向上に関する文言が消えた。

プラスチック袋やストローといった特定の製品を地球規模で段階的に廃止する計画はなくなった。持続可能な生産と削減目標に関する条文も同じであった。懸念の化学物質や添加物に関する透明性については何も言及されていない。リサイクル率の向上、野焼きや投棄の禁止、行動変容の促進といった基本的な文言さえも削除された。

明るい面としては、改訂案は依然としてイノベーションと研究を奨励していることが挙げられる。しかし、予防のための条項がなければ、努力は単に罰則を回避する抜け穴を探すことに終始するというリスクが考えられる。このようなことは以前もあった。禁止化学物質の一つが、規制されていない別の、しかし同様に有害な別の化学物質に置き換られたのだ。

消費者として我々は何ができるのか?

少なくとも今のところ、強力な条約は存在していないのだから、我々は消費者としての力と影響力を過小評価すべきではない。

産業界は確かに大衆の要求に応えてはいる。プラスチックマイクロビーズについて何が起きたかを考えてみるとよい。マイクロビーズは小さなプラスチック片であり、かつては角質除去剤、ボディスクラブ、歯磨きなどの個人用ケア製品によく使われていた。しかし、人々がマイクロビーズをマイクロプラスチックの発生源として認識し、マイクロビーズを含む製品の使用を拒否し始めると、メーカーもその動きに注目した。

各国政府も介入した。オランダが最初にマイクロビーズを禁止し、その後多くの国が同様の措置を取った。最終的に、メーカーは世界中で段階的にプラスチックマイクロビーズを製品ラインから除外した。

この変化を推進したのは、主に大衆からの圧力であった。小さな勝利ではあるが、人々の選択が変化をもたらすことができると認識させてくれる、意義深いものであった。

合成繊維とタイヤがマイクロプラスチックの最大の発生源の一部であると知っていただろうか?これら2つは、一次マイクロプラスチックの60%以上を占めている。マイクロプラスチックの放出は製品が廃棄され、海で分解されるときに発生するだけでなく、製品が着用され、あるいは洗濯されるときにも発生する。

服を買う量を減らす、可能な限り天然繊維を選ぶ、洗濯の頻度を減らす、車ではなく徒歩か自転車を選ぶなど、一見小さな行動でも、我々全員が一緒に動けば、変化をもたらすことができる。

また、マイクロプラスチックへの曝露を制限するには、身の回りにある他のマイクロプラスチックの発生源についても検討する価値がある。多くのカーペットは合成繊維で作られており、常にマイクロプラスチックを放出している。屋内、例えば車内ではマイクロプラスチックへの曝露が著しく高くなるため、徒歩を選ぶべき理由の一つとなっている。

条約を待つ必要はない

オーストラリアは化石燃料由来のポリマー原料をあまり生産していない。そのことが、オーストラリアが「2040年までにプラスチック汚染を終わらせるための高い野心連合」に参加している理由の一部となっていると思える。

しかしながら、オーストラリア人の一人当たりの使い捨てプラスチック消費量は他の多くの国よりも高く、年間50キログラム以上となっている。

我々の生活の中のプラスチック汚染を抑制するために、条約を待つ必要はない。我々が本気を出して生活習慣を変えていけば、メーカーも注目せざるを得なくなるであろう。

(2025年9月4日公開)

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