【The Conversation】 自然が生み出した「宇宙の拡大鏡」重力レンズ、ダークマターを垣間見る

大きく高性能な望遠鏡のある現代は、天文学者たちの黄金時代である。しかし、最先端の技術でさえ、自然が生み出した「宇宙の拡大鏡」、すなわち強い重力レンズの性能にはかなわない。

強い重力レンズが初めて発見されてからわずか50年足らずの間に、今では数千の重力レンズが発見されている。新しい望遠鏡が利用可能になったならば、さらに数千以上の重力レンズが発見されると予測されている。

我々は重力レンズを通して宇宙を奥深く覗き込み、現代の宇宙の謎の中でも最難問とされているダークマターと暗黒エネルギーを垣間見ることができる。

では、重力レンズとは何か、そしてどのように機能するのか?

重力の壮大な実証

重力レンズは、アルバート・アインシュタインの一般相対性理論を目に見える形で最もダイナミックに実証するものである。

アインシュタインは、質量は空間の構造そのものを曲げ、歪ませると述べた。これは、重いボーリングのボールをマットレスの上に置くと、その下のマットレスが曲がるのと同じことである。

あなたも、私も、木の葉も、原子も、質量を持つすべてのものは、このようにして時空を曲げる。

しかし、この効果が明確になるのは、例えば、銀河全体や銀河団など、物体がとても大きくて重い場合のみである。遠方の物体からやってきた光が巨大な銀河を通過すると、光は周囲の歪んだ時空によって曲げられ、焦点が合わさり、拡大されて人の目に見えるようになる。

この図では、多数の銀河からなる銀河団が、その背後にある別の銀河からの光を歪めている。地球から観測すると、背景の銀河は手前の銀河団の周囲に、歪んで大きく拡大された弧として見える
(NASA, ESA & L. Calçada, CC BY)

我々は常にこの効果を観測できる場所にいるわけではない。虫眼鏡を目の前に合わせる必要があるのと同様、重力レンズ効果が観測されるのは、背景の物体、手前のレンズ、そして我々の位置が揃った場合のみである。

このように揃うのは稀であるが、そのときには、望遠鏡を通して、通常は暗すぎて見えない物体の、歪んではいるものの拡大された複数の像を見ることができる。

ハッブル宇宙望遠鏡は、GAL-CLUS-022058sと呼ばれる印象的な重力レンズを捉えた。ここでは、銀河団が背景の銀河を歪めており、私たちはその銀河が90億年前にどのように見えていたかを間近に観察できる
(ESA/Hubble & NASA, S. Jha Acknowledgement: L. Shatz, CC BY)

見えないものを明らかにする

アインシュタインでさえ、重力レンズが現代天文学にとってどれほど重要なものになるかは予想できなかった。実際のところ、アインシュタインは、重力レンズを観測することは不可能だと考えていた。

それは、アインシュタインは銀河ではなく、個々の星の周りの重力レンズを考えていたためである。天文学者たちが銀河の巨大さ、そして宇宙がどれほど多くの銀河で満たされているかを理解するようになったのは、その数十年後のことである。

興味深いことに、重力レンズは我々には全く見えないものを詳しく見せることができる。

いくつかの理論は、宇宙を構成する物質の約85%はダークマターと呼ばれる目に見えない物質であると推測している。重力レンズが光を曲げたり歪ませたりする仕組みを利用すれば、銀河系内の物質の量を測定することができる。目に見える通常の物質だけでなく、ダークマターも測定できる。

重力レンズは、宇宙全体の銀河団の地図を作成し、その形状を理解するのにも役立つ。我々の宇宙は一枚の紙のように完全に平らなのか?球体のように曲線があるのか?あるいは馬の鞍のように外側に広がっているのか?

それは宇宙の密度によって決まる。銀河団の地図作成は、ダークエネルギーと呼ばれる仮説的な力の密度を測定するのに役立つ。

遠方の宇宙を観察する

重力レンズを通すと、背景の物体は通常よりも10~100倍明るいことが多い。この効果により、遠方の宇宙を高解像度で観察することができる。

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、この拡大効果を活用して、130億年以上前、ビッグバンからわずか3億年後という宇宙の初期段階の様子を捉えることに成功している。

はるか過去を観察することで、我々が属する天の川銀河がどのように形成され、将来どのように変化していくのか解明することができる。

典型的な若い銀河の現在の姿(左)我々の天の川銀河も渦巻き腕を持ち、これに似ている。将来的には、我々の天の川銀河も右のような巨大な楕円銀河へと進化する可能性がある
(Left: ESA/Hubble & NASA, ESO, J. Lee and the PHANGS-HST Team. Right: NASA, ESA, and The Hubble Heritage Team (STScI/AURA); J. Blakeslee (Washington State University))

選択肢が多すぎる

重力レンズをすべて見つけることは難しい。それはまるで宇宙規模の干し草の山から針を探すようなものである。重力レンズを見つけるためには、夜空の広大な範囲を捉えることのできる高画質の画像が必要である。

今年は、欧州宇宙機関(ESA)のユークリッド宇宙望遠鏡と、チリのヴェラ・ルービン天文台による2つの新たな天体観測プロジェクトが、この分野に革命をもたらすと期待されている。

ユークリッド宇宙望遠鏡は2023年に打ち上げられ、今年初めに最初のデータを発表した。全天の3分の1という広大な範囲を撮影し、宇宙空間ならではの鮮明さを見せている。

一方、ヴェラ・ルービン天文台は地上から観測を行うが、南半球全体の空を撮影する。これにより、今まで観測された中で最も詳細な宇宙のタイムラプス画像を作成することとなろう。

ユークリッド宇宙望遠鏡とヴェラ・ルービン天文台は、その運用期間中に10万個の新たな重力レンズを発見すると予測されているが、その数は現在私たちが知っている重力レンズの数の100倍に相当する。

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が公開した最初の画像の一つであるこの銀河団(SMACS J0723.3−7327)は、背後にある多数の遠方銀河の光を重力レンズで歪めている
(NASA, ESA, CSA, and STScI)

これらの望遠鏡は数十億個の銀河を観測できるが、その中から、どのようにして10万個の重力レンズを見つけるのか?科学者たちだけでこれほど多くの画像をかき分けて処理するのは現実的ではない。

代わりに、ユークリッド望遠鏡は科学活動に協力的な市民の力を得て、探すべきものをAIモデルに学習させている。市民に何枚かの画像を見てもらい、重力レンズか否かを判断してもらうことで、AIモデルはこれらの事例から学習し、そしてデータセット全体を検索する。(興味があるならば、ユークリッド望遠鏡のウェブサイトをご覧いただきたい)

重力レンズはあらゆることを可能にする。個々の重力レンズは遠方の銀河に関する独自の新たな洞察を提供することができるし、あるいは大規模な統計的サンプルを分析して宇宙の本質そのものを理解するための研究もできる。重力レンズは天文学者のツールキットの中でも万能ツールと言える存在であり、我々は近いうちに数多くの選択肢に恵まれることとなろう。

(2025年9月8日公開)

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