2021年08月
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脊髄性筋萎縮症、ゾルゲンスマで改善効果 豪州が国際臨床試験参加

オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW Sydney)は6月28日、脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy: SMA)を患う乳児の生存率や発達を、ウイルスベクターを用いた遺伝子治療薬「ゾルゲンスマ(Zolgensma)」が大いに改善する可能性が示されたと発表した。これはゾルゲンスマを用いた国際共同臨床試験「SPR1NT」の結果に基づくものである。オーストラリアからは、同大学の支援を受け、シドニー小児病院ネットワーク(Sydney Children's Hospitals Network: SCHN)が同試験に参加した。

SMAは遺伝性疾患で、乳児に発症した場合、筋力低下が進行し、寝返る・座る・這う・歩く等の動作ができなくなり、最終的には呼吸障害に至り、死に至ることもある。

欧州神経学会(European Academy of Neurology: EAN)の年次会議で発表された「SPR1NT」の第1パートの結果によると、SMAの症状は現れていないが発症リスクのある月齢6カ月未満の乳児14名にゾルゲンスマを投与したところ、月齢18カ月の時点で全患者が以下の状態を達成できたという。

  • 支えなしに座る
  • 永続的な人工呼吸器の使用を必要とせずに生存する
  • 全標準的な嚥下(えんげ)機能を有し、経口のみで栄養を摂取できる

治験担当医師を務めた、同大学准教授でシドニー小児病院の小児神経科医であるミシェル・ファラー(Michelle Farrar)氏はこの成果について、医師と患者家族の両方にとって革新的変化になり得ると語る。治療によって「生存できるだけでなく、多くの患者が健常な乳児と同様の発達マイルストーン(発達の目安となる動作)を達成できる」という結果は、前例のないものだという。

ニューサウスウェールズ州では2018年に新生児へのSMAのスクリーニング検査が導入された。この検査は今回の試験の基盤となり、SMAの早期発見にも大いに役立っているという。州政府はさらに、ウイルスベクターの製造能力強化に2,500万豪ドル(約20億円)を投資している。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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