オーストラリアのシドニー大学は6月29日、ナノワイヤーネットワーク(NWNs)を用いた脳神経網の模倣における信号処理のシミュレーションにより、ナノワイヤーネットワークを「カオスの縁(edge of chaos)」において脳のような状態に保つことで、最適なレベルでタスクを実行できることを発見したと発表した。研究成果は科学誌 Nature Communications に掲載された。
写真提供:シドニー大学
シドニー大学のジョエル・ホッフスタッター(Joel Hochstetter)氏とズデンカ・クンチック(Zdenka Kuncic)教授ならびに日本の物質・材料研究機構(National Institute for Materials Science: NIMS)の中山知信氏らの国際研究チームは、従来のアルゴリズムを必要としない新しくかつエネルギー要求量の低い情報処理のシステムを発見した。
これまで、神経科学は、人間の脳が「カオスの縁」で最もよく機能することを示唆してきた。神経細胞網を模倣したナノレベルのワイヤーからなるネットワークが、脳の情報処理メカニズム研究で用いられている。ナノワイヤーネットワークは、ニューロン間のシナプスのように電気化学的接合を形成しており、このネットワークを介して送信される電気信号は、情報を送信するための最適なルートを自動的に見つけることができる。さらに、ネットワークはシステムを介した以前の経路を「記憶」することもできる。
研究チームは、物理ネットワークのシミュレーションを作成して、単純なタスクを解決するためにネットワークをトレーニングする方法を示した。それによって、ネットワークを刺激する信号が低すぎる場合、経路は予測可能で整然としていて、有用であるほど複雑な出力を生成しないことが分かった。しかし、電気信号がネットワークを圧倒した場合、出力は完全に無秩序であり、問題解決には役立たなかった。
これらの結果から、有用な出力を生成するための最適な信号は、この混沌とした状態の端「カオスの縁」にあると結論付けられた。ナノワイヤーネットワークを「カオスの縁」で脳のような状態に保つことにより、最適なレベルでタスクを実行できることが判明した。クンチック教授は、記憶と操作を統合することは、人工知能(AI)の将来の開発にとって大きな実用上の利点があると期待を表明した。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部