オーストラリアのシドニー大学(University of Sydney)と量子技術スタートアップ「Q-CTRL」が共同で、人工知能(AI)の機械学習を用いて量子コンピューターのエラーの要因を特定する画期的技術を開発した。同大学が8月2日に発表し、研究成果は、米国物理学会(APS Physics)の学術誌 Physical Review Letters に掲載された。
この技術により、性能低下(performance degradation)の原因をこれまでにない精度で特定し、量子コンピューターの開発期間を短縮できる可能性がある。
量子コンピューターの欠点は、環境による「ノイズ」に弱いことである。Q-CTRLのCEOを務める同大学のマイケル・ビアクック(Michael Biercuk)教授が率いる研究チームは、このノイズによるエラーに注目。捕捉したイオン(trapped ion)と超伝導量子コンピューティングハードウェアを用いて、量子アルゴリズムの実行に必要な条件からのわずかな逸脱を検知する技術を開発した。
Q-CTRLの研究者は、測定した逸脱の原因を正確に特定するために、独自の機械学習アルゴリズムを用いて測定結果を処理する手法を開発した。さらに同社の既存の量子制御技術も用い、実際のノイズと、測定により生じる見かけ上の誤り(phantom artefact)を容易に区別することを可能にした。
ビアクック教授は「量子ハードウェアの性能低下の要因を特定し抑制する能力は、基礎研究にとっても、量子センサーや量子コンピューター開発に向けた産業的な活動にとっても不可欠となる」と語る。量子制御と機械学習を組み合わせることで得られた本研究の成果は、研究開発の大幅なスピードアップにつながるという。
Q-CTRLのCEOも務めるシドニー大学のマイケル・ビアクック教授(写真提供:シドニー大学)
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部