2021年10月
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アルゴ計画のデータで気候モデルの精度向上 オーストラリア

オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW Sydney)は、国際的な海洋観測プロジェクト「アルゴ(Argo)計画」で観測された近年の海水温データが、気候モデルの精度を向上させるための手掛かりになることがわかったと発表した。9月14日付。これは同大学とオーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の研究者の共同研究の成果であり、研究論文は学術誌 Nature Climate Change に掲載された。

「フロート」と呼ばれる観測機器を用いて水深2,000メートルまでの海水温を測定する「アルゴ計画」は、観測機器の性能や観測範囲の広さにより、従g来の観測手法よりも高精度なデータを提供できると考えられている。

生物・地球・環境科学科気候変動研究センターのジョン・チャーチ(John Church)教授は、本研究では、2005年から2019年にかけてアルゴで観測されたデータと最もよく合致するモデルを用いて、21世紀末までの海水温上昇の予測幅を狭めることを試みたと語る。

今回の分析の重要な結論の1つが、陸地や大気の温度は、地球全体の熱吸収のほんの一部を表すに過ぎないということである。チャーチ教授は「温室効果ガスにより吸収されたエネルギーの90%以上は海洋に溜め込まれている」と説明する。平均気温が一見安定を保っていた21世紀初頭にも海水温は上昇を続けていたという。

また、アルゴのデータを用いて予測することで、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価に比べ、予測幅を17%削減することができたという。

チャーチ教授は、「アルゴの観測期間がより長期にわたれば、海水温上昇や海面上昇の予測幅をさらに狭めることが可能になる」と指摘。さらに「アルゴの観測値や気候モデルによる予測値は既に、海水温上昇と海面上昇の危険な影響を避けるためには、温室効果ガスの大幅な排出削減が至急必要だということを示している」と警鐘を鳴らした。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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