オーストラリアのガーヴァン医学研究所(Garvan Institute of Medical Research)でゲノミクスとエピジェネティクスを研究するスーザン・クラーク(Susan Clark)教授は9月24日、日本の国立がん研究センター研究所の牛島俊和エピゲノム解析分野分野長、シンガポールゲノム研究所(Genome Institute of Singapore)のパトリック・タン(Patrick Tan)教授と、がんに関するDNA解析の最新の知見をまとめたレビュー論文を共同執筆し、科学誌Scienceに掲載されたことを発表した。
スーザン・クラーク教授(提供:ガーヴァン医学研究所)
以前はがんの発生には遺伝子変化のみが関連すると考えられていたが、最近、DNAの基本要素であるゲノムと、ゲノムの働きを決定するエピゲノム両方の変化が、がんの発生や進行に大きく関与していることがわかってきた。
最新の画像技術や単細胞解析(single-cell)技術により、がんが存在するさまざまな種類の細胞やゲノムとエピゲノムの変化を、3次元かつ高解像度でマッピングすることが可能になった。ガーヴァン-ワイツマン細胞ゲノミクス研究所(Garvan-Weizmann Centre for Cellular Genomics)では、生体顕微鏡を用いてこうした分野の研究に取り組んでいる。
現状の大きな課題は、生成される多様なデータを統合することであるが、人口知能(AI)を用いることでこれを解決できる可能性がある。もう一つの課題は、基礎研究の成果を臨床に応用することである。がんの形成に関わる細胞内の過程を解明することで、がんのリスクのスクリーニングや早期発見を改善できる可能性がある。将来的には、遺伝子やエピゲノムの特徴に基づいて発がん物質や発がんプロセスを環境から排除することも可能になるかもしれないとクラーク教授は期待する。
クラーク教授は、ゲノムやエピゲノムのデータを統合することは、多様なデータを統合して気候予測モデルを作成することに似ていると指摘し、さまざまな層のDNA情報が連動してがん化という「細胞の気候変動」を引き起こす仕組みを解明する必要があるとしている。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部