オーストラリアのシドニー工科大学(UTS)は10月11日、バイオフィルム(biofilm)を形成する病原菌が、抗菌作用を持つナノ銀(nanosilver)から生き延びるよう進化する可能性があると発表した。ナノ銀を用いた長期的治療によって感染リスクが増大するリスクを示した初めての研究となる。研究成果は学術誌 Journal of Nanobiotechnology に掲載された。
ナノ銀は強力な抗菌作用を持ち、カテーテルや創傷被覆材等の感染症予防に用いられる。また、抗菌ナノ粒子として、石鹸や歯磨き粉、洗濯機、冷蔵庫、靴下などの日用品にも幅広く用いられている。
UTSの微生物研究施設 であるアイスリー研究所(ithree institute)の研究チームは、緑膿菌によるバイオフィルム型の成長を通じた適応現象を研究し、プランクトン型の成長に関する先行研究では見られなかった新たな適応メカニズムを観察した。ナノ銀を長期的に使用した場合、細菌集団の99.99%が死ぬが、0.01%は生存する。この生存したわずかな細菌が、ナノ粒子抗菌剤の使用終了後、通常の成長を再開するという。
論文筆頭著者のリティ・マン(Riti Mann)博士は、この研究結果は、長期間曝露されるナノ粒子の管理戦略に役立てることができるとし、「ナノ粒子抗菌剤を長期間使用した場合は、使用中だけでなく、使用後も、感染症の再発がないか患者を観察することを推奨する」と語った。
研究を率いたシンディ・グナワン(Dr Cindy Gunawan)博士は、「効果的な抗生物質はここ数十年間、限られた数しか開発されていない。治療困難な感染症と戦い、命を守り、医療費を節約するには、(ナノ銀のような)代替抗菌薬の有効性を守る必要がある」と語った。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部