励起子(れいきし)科学に関するオーストラリア研究会議(ARC)の励起子科学分野のセンター・オブ・エクセレンス(Centre of Excellence in Exciton Science) は11月5日、一硫化スズ(tin mono-sulfide:SnS)のナノシートを用いて、史上最も薄いX線検出器を作成したと発表した。生きた細胞をリアルタイムでイメージングする技術に役立つ可能性があり、研究成果はAdvanced Functional Materials に掲載された。
今回作成されたX線検出器の厚みは10nm(ナノメートル)未満。これまで最薄のX線検出器は、20~50 nmであった。
同研究機関のメンバーであるオーストラリアのモナシュ大学(Monash University)とロイヤルメルボルン工科大学(RMIT)の研究者らは、太陽光発電の候補材料としても注目されているSnSナノシートが、軟X線(Soft X-ray)検出器の材料としても有望であることを発見した。SnSを採用した決め手は、その光子吸収係数の大きさであったという。
研究チームは、液体金属を用いた剥離(exfoliation)手法を用いて、「水の窓(water window)」領域の軟X線光子を効率的に検出できる、高品質で大面積のシートを作成し、既存の直接型軟X線検出器と比べて感度と応答時間を大幅に改善することに成功した。水の窓は軟X線に対して水が透明になる電磁スペクトル領域であり、水分を含む(wet)タンパク質や生きた細胞の観察において重要となる。
論文の筆頭著者ババール・シャビール(Babar Shabbir)博士は「長期的には、商用化に向けて画素数の多い機器でテストを行う必要がある。現段階ではまだイメージングシステムはないが、今回の研究により、知識の基盤とその原型を作ることができた」と語った。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部