オーストラリアのシドニー大学(University of Sydney)は1月27日、同大学の研究者らが、メスだけで構成されるシロアリのコロニーの成立過程を明らかにしたと発表した。研究成果は学術誌 Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS :全米科学アカデミー紀要)に掲載された。
シドニー大学のネイサン・ロー(Nathan Lo)教授と博士研究員の矢代敏久氏 は4年前に日本で、森林に生息する「カンザイシロアリ(drywood termite)」のメスだけのコロニーを発見した。今回の研究では、これらのコロニーが、人間が意図せず持ち込んだ系統との交配の結果生まれたことが明らかになった。
交雑個体の子孫は強い傾向にあるうえ、このコロニーはオスなしでの単為生殖が可能なため、繁殖量を2倍に増やせる。非交雑種は、これらの交雑種との競争に負けて排除される可能性がある。
これらのシロアリは家屋所有者にとっても脅威になりうる。「カンザイ(drywood)」という名が示すように湿度が低い環境でも生息でき、構造材や家具を食い荒らす上、貿易を通じて世界各国を移動して交雑する可能性があるためである。
ロー教授は、今回の発見はオーストラリアのバイオセキュリティに影響するといい、「外来のシロアリが定着し無いようにすることの重要性が浮き彫りになった」と語った。
Chromosomes in the reproductive tissues of male Glyptotermes nakajimai, which have an unusually high number of Y chromosomes (15 out of 17). Credit: Tomonari Nozaki. (提供:シドニー大学)
また、今回の研究では、オスとメスの両方が存在するカンザイシロアリのコロニーを観察した結果、オスの精子の17本の染色体のうち、Y染色体またはX染色体が15本存在することを発見した。人間を含む多くの種では、精子のY染色体またはX染色体の数は(人間の場合23本中)1本である。
ロー教授は「シロアリは近親交配が非常に多いため、オスが複数のY染色体を持つことで遺伝的多様性を高め、近親交配でも生存能力の高い子孫を残せるよう進化したのだろう」 と語った。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部