オーストラリア研究会議励起子(れいきし)科学分野のセンター・オブ・エクセレンス(ARC Centre of Excellence in Exciton Science)は2月14日、同センターの研究チームが有機LED(OLED)のオーバーハウザー効果(Overhauser field)を表す初の2次元マップを作成したと発表した。この研究の成果は学術誌 Advanced Materials に掲載された。
オーバーハウザー効果は、OLEDディスプレイ等に使われる有機電子材料において、1つの電子が分子内の多数の核スピンによって生じる磁場と相互作用することにより生じる蓄積的な効果である。
これまでオーバーハウザー効果の強さは単一の値でのみ表されていたため、局所的なスピンの変動を検知できず、スピンの本来の複雑性を反映できなかった。これにより、スピンの振る舞いを利用したデバイスを再現したり小型化したりする方法に不確実性が生じていた。
オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW Sydney)を拠点とする研究チームはこの不確実性の解決に向け、大きな磁界を使用して磁気的に強化されたOLEDの輝度の顕微鏡的変動を画像化した。チームはこれらの変動をマイクロメートルスケールまで分解し、オーバーハウザー効果の空間的分布をマップに表示することに成功した。
結果、このスピン性質の変動率は広く用いられている安定性の高い高分子OLED(SY-PPV)で少なくとも30%、低分子の蛍光ベース素子(Alq3)では60%近くに上ることが分かった。
研究チームを率いたUNSWのデーン・マッケイミー(Dane McCamey)教授は「今回の研究により、デバイスを再現可能な方法で生産するうえでの課題が浮き彫りになったが、商用OLEDディスプレイで用いられている技術を利用してこうした微細な量子効果を室温で探査できたことは素晴らしい」と語った。
チームは次のステップとして、OLEDを極低温まで冷却して熱変動を取り除き、スピン特性の時空間変動をより正確に測定することを計画している。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部