オーストラリアのシドニー大学(University of Sydney)は「世界蜂の日(World Bee Day)」の5月20日、同大学の科学者が、養蜂業に深刻な被害をもたらしている2種類の害虫に作用し、ミツバチには安全な殺虫剤を開発していると発表した。
この殺虫剤が標的とする「ミツバチヘギイタダニ(Varroa mite)」と「ハチノスムクゲケシキスイ(small hive beetle)」は、世界各地でミツバチのコロニー消失の主要な原因となっている。
ハチノスムクゲケシキスイ(small hive beetle)がミツバチの巣を襲っている場面 (提供:CSIRO)
世界の農業システムの30%が花粉媒介によって支えられている。花粉媒介者としてのミツバチの価値は特に高く、オーストラリアの農業経済の約3分の1に貢献している。
このプロジェクトを率いる同大学のエミリー・レムナント(Emily Remnant)博士は、「この殺虫剤に含まれる分子は、ミツバチとそれぞれの害虫の体内に含まれる、エクジソン(昆虫のホルモンの一種)受容体タンパク質の違いを利用する。害虫ではこのタンパク質の働きを阻害する一方、ミツバチ体内の対応するタンパク質には影響を与えない」と解説する。
このタンパク質は脊椎動物の体内には存在しないため、この殺虫剤が鳥や猫、犬等の動物に影響を与えることはない。また、節足動物の間でもエクジソン受容体の構造には差があるため、害虫のみに作用し、益虫には害を与えない分子を設計することもできる。
チームは現在、この殺虫剤に用いるエクジソン受容体の活性分子の同定に取り組んでいる。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部