オーストラリアのラ・トローブ大学(La Trobe University)は6月16日、同大学が主導した研究により、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患後症状(long COVID)としてみられる、「brain fog(ブレイン・フォグ:脳に霧がかかったような状態)」等の神経症状の原因が明らかになった可能性があると発表した。研究成果は学術誌 Nature Communications に報告された。
この研究は、神経学的な罹患後症状の一部が、アルツハイマー病や認知症と同様に脳内のアミロイド凝集塊(ぎょうしゅうかい)により引き起こされている可能性を初めて示唆したものとなる。
COVID-19の罹患後症状は、約30%の患者に記憶力の低下や感覚の混乱、重度の頭痛、脳卒中といった神経症状が生じることが特徴的であり、これらの症状は感染から回復した後も数カ月間持続することがある。これらの神経症状を引き起こす正確な機序は明らかにされていなかった。
研究チームは今回、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のタンパク質のフラグメントから同様のアミロイド凝集塊が形成され、これらの凝集塊が人工培養した脳細胞にきわめて有害な影響を及ぼすことを発見した。
同大学のニック・レイノルズ(Nick Reynolds)博士は、さらなる研究により、アミロイド凝集塊がCOVID-19の罹患後症状の一因となることを確定できれば、アルツハイマー病やパーキンソン病の治療用に開発された薬をこれらの神経症状の治療に利用できるかもしれないと語った。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部