2022年10月
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タツノオトシゴのオスの「出産」に関わる独自の身体構造を解明 オーストラリア

オーストラリアのシドニー大学(University of Sydney)とニューカッスル大学(University of Newcastle)の共同研究チームが、タツノオトシゴ(seahorse)のオスが、哺乳類のメスとは異なる行動や身体構造を用いて分娩を促進している可能性を突き止めた。9月6日付け発表。この研究成果は学術誌 Placenta に発表された。

タツノオトシゴの分娩は、哺乳類と共通している部分があるという

タツノオトシゴでは、オスが「育児嚢(のう)」という袋で卵を育て、稚魚を出産する。この育児嚢には哺乳類のメスの子宮と同様に胎盤があり、妊娠期間中に栄養や酸素を子に運ぶための遺伝的指令も哺乳類のメスと同様であることが知られている。

チームは遺伝子データや先行研究に基づき、タツノオトシゴのオスの出産にも、哺乳類のメスと同様の仕組みが用いられると仮説を立てた。

哺乳類の出産では、オキシトシンホルモンの刺激により子宮の平滑筋が収縮し、分娩が促進される。しかし、育児嚢の組織片をイソトシン(オキシトシンに相当する魚類のホルモン)にさらしても収縮は起こらなかった。顕微鏡観察により、育児嚢に含まれる平滑筋の量は哺乳類の子宮に含まれる平滑筋よりもはるかに少ないことがわかった。

「袋」で卵を育てるオスのタツノオトシゴ

次にチームは3Dイメージングと顕微鏡を組み合わせてタツノオトシゴの雌雄の身体構造を比較した。その結果、オスでは育児嚢の口の近くにある骨格筋と骨がメスに比べて非常に大きく、その向きから、これらの筋肉と骨が育児嚢の開口を制御する可能性が示唆された。タツノオトシゴのオスはこれらの筋肉を使って意識的に稚魚を育児嚢から出せるのではないかと研究者らは考えている。

「袋」をどのように制御しているかはさらなる研究が必要だという
(提供:いずれもシドニー大学)

これらの筋肉を制御する力やオスが育児嚢の開口を制御できるかどうかに関しては、さらなる生体力学的・電気生理学的研究が必要とされる。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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