オーストラリアのシドニー大学(University of Sydney)は、気候変動の影響でサンゴ礁が崩壊することによる、国際海洋法上の海域(maritime zone)への影響を考察した同大学の研究を紹介した。9月12日付け。研究成果は学術誌 Environmental Research Letters に発表された。
インド太平洋の広域にわたってみられるサンゴ礁島は複雑な生物・物理学的過程により変化し続けているため、これらに関する国際海洋法上のルールは解釈が分かれやすい。今回の研究は、海面上昇や海洋酸性化によりこうしたルールにさらなる不確実性が生まれ、地政学的な影響をもたらすとの見解を示している。
論文の筆頭著者である同大学のトマス・フェローズ(Thomas Fellowes)博士は「サンゴ礁島は多数の大きな海域の法的根拠となっており、気候崩壊は、小島嶼国だけでなく、南シナ海のように既に境界を巡る紛争が発生している場所にも実質的な影響を及ぼす可能性がある」と語る。
IPCCのデータ [Source: IPCC]
167カ国が加盟する国連海洋法条約(United Nations Convention on the Law of the Sea:UNCLOS)の下では、サンゴ礁の「低潮線(low-water line)」が海域の根拠となっている。ただ、「気候によりサンゴ礁島の構造的完全性(structural integrity)が変化することが、法的脆弱性につながるかどうかについては明確な合意がない」と、同大学法学部の博士課程に在籍するフランシス・アンガディ(Frances Anggadi)氏は指摘する。
サンゴ礁の地形ゾーンの断面図。波のエネルギー勾配、堆積物の特徴、 UNCLOS ベースラインが示されている [Source: Vila-Concejo and Kench]
(提供:いずれもシドニー大学)
研究者らは、現在の主張を維持する方法として、地理座標やリモートセンシング技術を用いてサンゴ礁の基線(baseline)を決定する方法を挙げている。また、気候変動が島の居住可能性に及ぼす影響をより詳細に理解することも重要であると述べている。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部