2023年06月
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ナノワイヤーネットワークが人間の脳と同様に学習・記憶できることを実証 オーストラリア

オーストラリアのシドニー大学(University of Sydney)は4月24日、人間の脳の物理構造を模したナノサイズの金属線から成るネットワーク(ナノワイヤーネットワーク)が、脳と同様の短期記憶と長期記憶を示せることを実証したと発表した。同大学の研究者が率いる国際共同研究チームによる研究。研究成果は学術誌Science Advancesに掲載された。

ナノワイヤーネットワーク
© Alon Loeffler.

研究を率いた同大学のアロン・レフラー(Alon Loeffler)博士はこの研究について、「非生物的ハードウェアシステムで脳のような学習と記憶を再現することへの道を開き、脳のような知能の基礎にある性質は物理的なものかもしれないと示唆している」と説明した。同氏はこれまでも日本の国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)の中山知信氏らと共同でナノワイヤーネットワークの研究に取り組んできた。

アロン・レフラー(Alon Loeffler)博士
(出典:いずれもシドニー大学)

人間の心理実験で用いられるNバック課題(N-Back task)に似た記憶試験を用いてこのネットワークの能力を検証した結果、このネットワークは、連続して提示される刺激を7つ前(n =7)まで電気回路に「記憶」した。

レフラー博士は「末端の電極に加える電圧を操作することで強制的に経路を変更し、望ましい方向に進ませるようにしたところ、記憶の正確性が大幅に向上し、時間が経っても大きく低下しなかった。これは経路を強化することが可能であり、ネットワークはそれを記憶するということを示している。脳が特定のシナプス結合を強くしたり弱くしたりすることで選択的な記憶や学習を可能にする仕組みと同じである」と語る。また、ネットワークを持続的に強化することにより、脳と同様に情報を長期記憶として固定化できることも示された。

このようなナノワイヤーネットワークは、将来、予測不可能な状況における迅速な意思決定を必要とするロボットやセンサー装置に活用できる可能性がある。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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