2023年06月
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ネットゼロ達成における原子力発電、経済的競争力に弱み 豪CSIROが見解

オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)は5月11日、豪州の発電・蓄電技術のコストを推定した報告書『GenCost2022-23』に基づき、同国が温室効果ガスのネットゼロ排出を目指すうえで、小型モジュール炉(SMR)を含む原子力発電技術は現状では経済的競争力のある方策ではないとの見解を明らかにした。

この報告書はCSIROとオーストラリアエネルギー市場運営者(AEMO)が年1回作成しているものである。2022~23年版は、過去数年間の報告書に引き続き、主に陸上風力発電と太陽光発電から成る再生可能エネルギーが最も低コストな発電技術であるとの結果を示している。均等化発電原価に貯蔵・送電コストを加えた計算に基づくと、2030年には風力・太陽光発電のコストはメガワット時あたり最大83豪ドルになる。これに対し、SMRのコストは130~311豪ドル/メガワット時になると推定された。

原子力、特にSMRに関しては実世界のデータが不足しているため、コスト計算が困難になっている。CSIROのエネルギー経済学者ポール・グラハム(Paul Graham)氏は「原子力の主な不確実性領域(area of uncertainty)は資本コストに関するものである」と指摘する。

また、豪州では現在、原子力発電が法律で禁止されており、発電能力を構築するには長い期間を要すると予想される。こうした要素を踏まえ、同氏は「再エネとの競合が非常に困難になることは明白である」と述べた。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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