2023年07月
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量子機械学習がAIのサイバーセキュリティの鍵に 豪CSIRO

オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)のData61部門とメルボルン大学(University of Melbourne)の研究者が、人工知能(AI)アルゴリズムをサイバー攻撃から保護するうえで、量子技術の進化が鍵となる可能性があることを明らかにした。この研究は豪州陸軍の支援を受けて実施され、研究成果は5月25日付けで学術誌Nature Machine Intelligenceに発表された。

車 (緑の線) とコンピューター (黄色の線) は、機械学習アルゴリズムによって正しく識別される。しかし、サイバー攻撃を表すランダムなノイズが画像に追加されると、アルゴリズムが誤ってコンピューターを自動車 (ピンクの線) として分類してしまう

AIアルゴリズムは、顔認識、生体認証、ドローン、自動運転車等のあらゆる自律システム・ロボットシステムの基盤を成す。これらのアルゴリズムを支えるデータはサイバー攻撃に対して脆弱であり、画像データを数画素変更するといった微妙なデータの操作でも、誤った予測や、深刻なセキュリティ上の脅威につながる恐れがある。

論文の責任著者であるムハンマド・ウスマン(Muhammad Usman)博士は、「量子機械学習(quantum machine learning)は、量子コンピューティングの最も有望な用途の1つ。量子と機械学習を統合することで、AIの学習を高速化し、サイバー攻撃に対する堅牢性を高めることができる」と語る。

機械学習アルゴリズムは、人を識別するようにトレーニングされている (a)。アルゴリズムは人物を正しく識別する (b) 。しかし、サイバー攻撃でほんの数ピクセルが変更された場合 (c)、アルゴリズムは人物を識別できません (d)。無人運転車の場合、サイバー攻撃の結果、道路に人がいないと機械学習アルゴリズムが予測した場合、重大な結果が生じる可能性がある
©Metzen et al. "Universal Adversarial Perturbations Against Semantic Image Segmentation"
(出典:いずれもCSIRO)

量子コンピューターが強力なサイバー攻撃の創出に用いられる恐れもあるが、「量子ハードウェア・ソフトウェアは急速に進化しており、より高度な誤り抑制(error mitigation)戦略も登場しつつある。近い将来、量子コンピューターで量子機械学習アルゴリズムの利点を実証できるようになるだろう」とウスマン博士は話した。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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