オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)は6月22日、人工知能(AI)を用いた労働生産性の向上について論じた、Data61部門の研究者シュテファン・ハイコヴィチ(Stefan Hajkowicz)氏による記事を発表した。記事の概要は以下の通り。
豪州経済開発委員会(Committee for the Economic Development of Australia)によると、豪州の労働生産性の伸び率は現在、過去60年間で最も低い水準にある。このような生産性の低迷は大部分の先進国に共通してみられる問題でもある。
こうした状況のなか、AI、とりわけChatGPTやDALL-Eのような生成AIが生産性の救世主になるとの期待が高まっている。しかし、AIは生産性の「万能薬」ではなく、愚鈍な(dumb)組織に最先端のAIを導入しても組織は賢く(smart)はならない。
AI導入が生産性の大幅な向上につながる状況としては、AIシステムのための明確なニーズと任務(function)があり、これらの任務が組織の広範なプロセスとよく統合されており、従業員の他の作業に干渉しないといった条件が挙げられる。また、質の高いデータがアルゴリズムの訓練に用いられ、倫理的原則に従って安全に利用されることも必要である。
一方で、いまだに基本的なデジタルトランスフォーメーション(DX)の段階で苦戦している企業では、AIを用いて企業全体の生産性を向上させることは難しい。Eメールや不要な会議、お役所仕事的なプロセス等によって集中力が妨げられている状況をAIが解決することはできないと思われる。
長期的には、AIは社会レベルでの生産性を大幅に向上させる可能性が高い。AI導入を成功させるには、適用する状況を理解し、作業に適した正しいツールを選択し、正しく使用することが重要である。また、その前に、プロセス、企業統治、文化、倫理の問題に取り組む必要がある。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部