オーストラリア研究会議励起子科学分野のセンター・オブ・エクセレンス(ARC Centre of Excellence in Exciton Science)のメンバーらが、励起子論理(excitonic logic)を用いたコンピューティングの実現に向けたロードマップを学術誌Nature Reviews Chemistryに報告した。1月31日付発表。
著者らは、材料が光子などのエネルギー源によって「励起」されたときに生成される励起子(exciton)と呼ばれる準粒子の力とポテンシャルを利用して、既存の無機論理素子(inorganic logic element)を代替することを提唱している。励起子は既にソーラーパネルや発光ダイオード(LED)などの重要な技術で利用されているが、今後はコンピューターの性能を大幅に高めるために利用できる可能性がある。
半導体チップを用いた現在のコンピューティング素子では、電圧の高低によって情報を「ビット」(0か1か)に符号化するが、この代わりに励起子を用いて情報を符号化することでさまざまな利点が得られるという。励起子回路部品は単分子を用いて構築できるため、既存のトランジスタやダイオードよりも大幅にサイズを小さくできる。また、多励起子(multiexcitonic)プロセスはフェムト秒(1000兆分の1秒)単位という驚異的なスピードで起こるため、コンピューターを大幅に高速化できる。
さらに、有機半導体分子を用いた励起子論理素子は、シリコンを用いた素子と異なり生体適合性を持つため、脳インプラント、皮膚モニターなどの医療機器にも利用できる可能性がある。
このように励起子を用いた論理演算は、情報技術を全く異なるものへと進化させる可能性を秘めた、非常に興味深い概念である。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部