2025年05月
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ナノスケールで骨構造を再現、3Dプリンティング技術を開発 シドニー大学

オーストラリアのシドニー大学は4月4日、研究者らが天然骨のミネラル組成を厳密に模倣したナノスケールの3Dプリンティング技術を開発し、従来にない精密さで合成骨を製作することに成功したと発表した。研究成果は学術誌Advanced Materialsに掲載された。

(出典:シドニー大学)

本研究は、シドニー大学のハラ・ズレイカット(Hala Zreiqat)教授と、現シドニー工科大学のイマン・ルーハニ(Iman Roohani)准教授らを中心に行われた。研究チームは、生体適合性材料であるリン酸カルシウムなどから成る特殊なインクを使用し、解像度300nmで、既存技術の1000倍に相当する精度の3Dプリントを実現した。

人間の骨は一見単純に見えるが、その内部にはマイクロ・ナノスケールの複雑な構造が存在し、骨の強度と耐久性を担っている。これらの構造を模倣して3Dプリントすることは困難であったが、今回の技術により高精度な再現が可能となった。

ズレイカット教授は「合成骨は、骨と同等の強度と完全性を備えていなければなりません。今回ナノレベルでの再現に成功したことで、将来の骨移植手術に変革をもたらす一歩となりました」と語った。

研究では、骨形成の鍵を握るナノサイズのクラスターが活用された。これらは自然な骨に存在し、石灰化プロセスを誘導することで骨の形成において重要な役割を果たす。チームはこのクラスターを透明かつ印刷可能なリン酸カルシウム樹脂に組み込むことで、天然骨の石灰化プロセスを模倣した。ルーハニ准教授は「この成果は、バイオセラミックインプラントや再生医療、高性能バイオマテリアルの開発に革命をもたらす可能性があります」と述べた。

オーストラリア整形外科協会によると、2023年に国内で実施された関節置換手術は、股関節が5万8529件、膝関節が7万8125件、肩関節が1万141件にのぼる。従来はチタン製のプレートやネジなどの金属インプラントが使用されていたが、感染症や異物反応といった課題があった。今回の技術は、これらの課題を克服し、体内で徐々に生体と一体化して新たな骨の形成を促進するものとされている。

チームの博士課程学生であるシュニン・ワン(Shuning Wang)氏は「ナノスケールで天然骨を模倣した本技術は、臨床応用への橋渡しとなります。今後は拡張性の向上に取り組みます」と語った。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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