2025年05月
トップ  > 大洋州科学技術ニュース> 2025年05月

ダイアウルフの「復活」は絶滅危機の深刻さを軽視 豪シドニー大学

オーストラリアのシドニー大学(University of Sydney)は4月16日、同大の研究者らが、テクノロジーは絶滅した種を元に戻すことはできないと主張していることを明らかにした。

4月初旬、メディアはダイアウルフ(Aenocyon dirus)復活のニュースで溢れた。ダイアウルフは約1万3000年前に絶滅した種である。この画期的な技術は、絶滅した種の復活を通じて生物多様性を回復することを目標とする米国のコロッサル・バイオサイエンス(Colossal Biosciences)社によって成し遂げられた。このプロジェクトは保全の勝利として称賛され、喧伝されているが、本当に自然保護の最善の利益を念頭に置いているのだろうか。

シドニー大学の生態学者であるピーター・バンクス(Peter Banks)教授とディーター・ホッホリ(Dieter Hochuli)教授らは、遺伝子学の進歩は、科学や技術の偉業である一方、現在の絶滅危機の深刻さを軽視するリスクがあると主張する。この問題は、生物多様性を保護するために必要な実績のある保全活動から焦点を奪うことである。

まず、創造された3匹の「ダイアウルフ」の子犬は、実際にはダイアウルフではないことを認識することが重要である。コロッサル社はCRISPR-Cas9と呼ばれる遺伝子技術を使用して、ハイイロオオカミのゲノムの14の遺伝子に20回の編集を施し、「ダイアウルフ」を作り出したのである。

(出典:いずれもシドニー大学)

タイム誌の表紙に掲載されたExtinct(絶滅)の文字が消されたような見出しは、環境破壊がどれだけ進んでも、種の絶滅が簡単に戻せるという誤った希望を植え付ける。

既に大きな圧力にさらされている生態系において、頂点捕食者の生息地の保全ができなければ、絶滅した種をどのような世界に戻すことができるのだろうか。地球上では、毎日最大150種が絶滅すると考えられている。どのような遺伝技術であっても、生息地の破壊や乱獲、気候変動といった根本的な原因に対処しない限り、この問題は解決しない。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

上へ戻る