2025年06月
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合成エラスチンで皮膚再生、創傷治癒や美容医療に応用 シドニー大学

オーストラリアのシドニー大学は5月16日、エラスチンという弾性タンパク質を人工的に再現し、創傷治癒や美容医療に応用する技術開発が進行していることを発表した。

(出典:シドニー大学)

エラスチンは皮膚や血管などの伸縮性を保つたんぱく質であり、人体内でも特に寿命の長い組織として知られる。1990年代から研究を重ねてきたトニー・ワイス(Tony Weiss)教授は、急速な老化を引き起こす希少疾患「ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群」に関する研究を通じて、エラスチンの前駆体であるトロポエラスチンに注目した。

同教授のチームは、健康なトロポエラスチン遺伝子を細菌に導入することで、合成エラスチンを大量生産する技術を確立した。さらに、このたんぱく質をゲルやシート、チューブなどに加工し、創傷部位の治癒を促進する医療デバイスの開発に成功した。既にオーストラリア国内やヨーロッパで4件の臨床試験を完了し、別の試験も進行中である。

こうした成果を基に、同教授が創業したスタートアップ企業Elastagen社は、2018年に米国製薬企業アラガン(Allergan)社に2億6000万米ドルで買収された。現在は、ニキビ痕やストレッチマーク、手術創など幅広い皮膚再建の分野で技術の実用化が進んでいる。「素材の生産は出発点にすぎません。今は、それをどう組み立て、どんな医療機器として患者に届けるかを考える段階です」とワイス教授は語る。特許取得数は176件にのぼり、研究論文は270本を超える。

教授は、シドニー大学の起業支援機関「シドニー・ナレッジ・ハブ」や、シドニー地方保健局・ニューサウスウェールズ州政府との連携による「シドニー・バイオメディカル・アクセラレーター」などを通じ、若手研究者の支援にも力を注いでいる。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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