オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)は5月21日、国内の抗菌薬剤耐性(AMR)に関する研究とイノベーションの進展や課題を包括的に分析した報告書「AMR Lens Report」を発表した。
Image: Pexels, RDNE (出典:CSIRO)
AMRとは、細菌や真菌、ウイルス、寄生虫などの微生物が薬剤に対して抵抗力を持ち、従来の治療法が効かなくなる現象である。世界保健機関(WHO)は、AMRを「世界の公衆衛生における10大脅威」の一つに挙げており、年間127万人の死亡と471万人の関連死に関与している。
報告書によれば、オーストラリアにおけるAMR研究は1980年の52件から2022年には2100件超へと急増しており、10%の論文が製品特許に引用されている。これは、同国の研究成果が技術革新にも大きく寄与していることを示す。
一方で、生態学や植物学など、環境分野に関する研究は相対的に遅れており、下水処理や農業排水など環境対策への注目が求められている。また、特許の多くが抗菌剤に集中していることから、真菌、ウイルス、寄生虫など他の病原体への対応も重要であると指摘されている。
CSIROでAMR対策を主導するブランウェン・モーガン(Branwen Morgan)博士は「AMRは複雑かつ拡大を続ける課題であり、あらゆる分野の協力が必要です」と述べ、多面的な戦略の必要性を訴えた。
報告書では、次のような対応策が示された。
CSIROは、今後も「ワンヘルス」視点に基づき、人間、動物、環境の連関を意識した総合的対策の重要性を強調している。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部