2025年07月
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Btコットンに抵抗性示すオオタバコガのゲノム変異を解析 豪CSIRO

オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)は5月30日、遺伝子組み換え作物であるBtコットンが含む殺虫タンパク質Vip3Aに対する新たな抵抗性遺伝子をオオタバコガ(Helicoverpa armigera)で発見したと発表した。

CSIROの「昆虫エンジニアリング」チームの研究者アンディ・バックラー(Andy Bachler)博士

Btコットンは、土壌細菌バチルス・チューリンゲンシス由来の遺伝子を利用して開発された作物で、1996年にオーストラリアで初めて商業栽培が始まって以来、殺虫剤使用の削減と収量増に貢献してきた。しかし近年、一部の害虫が抵抗性を示す事例が観察されている。

CSIROのアンディ・バックラー(Andy Bachler)博士とトム・ウォルシュ(Tom Walsh)博士らは、ロングリードシーケンシングを用いて、BtコットンのVip3Aタンパク質に耐性を持つオオタバコガのゲノムにおける変異を詳細に解析した。その結果、HaVipR1という重要な遺伝子が2つの方法で破壊されていたことが分かった。これは、従来の短鎖シーケンシングでは見えなかったもので、1つ目はイントロンへの大規模挿入、2つ目は重要な遺伝子領域の欠失による変異である。どちらも遺伝子機能を破壊し、Vip3Aへの感受性を消失させた。これらの変化は自然界でのランダムな遺伝子変異により引き起こされたと考えられる。

世界で最も貪欲な綿花害虫が生息するオーストラリアでは、CSIROが持続可能で環境に優しい害虫対策法の開発を主導している
(出典:いずれもCSIRO)

アンディ博士は「遺伝子を見つけたので、現場でこれを監視することができます」と語る。現在のところ、オーストラリアではこのような耐性を持つ害虫が広範囲には広がってはいないという。同博士は「害虫耐性管理を含むすべての作物管理対策がまだ機能していることを意味します」と述べた。

トム博士は「オオタバコガが持つ耐性遺伝子は、同じように他の多くの害虫種にも関係しています」と語る。この遺伝子は他の昆虫にも広く分布しており、他の既知の抵抗性遺伝子とは独立して機能していることから、Vip3A抵抗性の新たなメカニズムと言える。CSIROの共同研究者である中国の南京農業大学のイードン・ウー(Yidong Wu)教授は、世界的に増加している植物害虫であるヨトウガにも同様の抵抗メカニズムが働いていることを発見した。この耐性のメカニズムを理解することで、耐性に対抗するためのさらなる選択肢が開かれ、さらには耐性の発生を回避することにも役立つ可能性がある。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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