オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW)は6月10日、UNSWの研究者らが、新型コロナウイルスが変異する仕組みを長期的に追跡し、変異株の出現を予測する手がかりとなるパターンを明らかにしたと発表した。研究成果は学術誌Journal of Virologyに掲載された。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが始まった頃、世界の人々が急速に広がるウイルスを理解しようと奔走する中、オーストラリアの研究チームは、ウイルスが長期的にどのように進化するかに着目した研究に着手した。この研究は、5年以上の時を経て、ウイルスの驚くべき適応能力を明らかにし、異なる株で繰り返し独立して出現する一般的な変異に光を当てた。
UNSW生物医学科学部のチャールズ・フォスター(Charles Foster)博士は、この研究は、同種の実験の中で最も大規模に行われたものであり、今後の変異株の出現を予測し、治療法や予防策の設計に役立つ可能性があるという。
研究者らは、複数年にわたる研究で、アルファ、デルタ、オミクロンを含む9つの異なる新型コロナウイルスの変異株から採取した11のウイルスサンプルが、時間の経過とともにどのように変異したかを調査した。サンプルは、ウイルス研究でよく使用される免疫反応が弱いサルの腎細胞(Vero E6細胞)で培養された。研究者らは、ウイルスの遺伝コードが継代中にどのように変化するか追跡した。これは、変異がいくつ現れ、それらが定着したか、消えたかを調査することであった。
この調査は、異なる株で繰り返し出現する新しい突然変異(収斂進化として知られる現象)や、現実世界の感染症の流行で見られるものを反映した変化が見られた。論文の主任著者でUNSW生物医科学部のウィリアム・ローリンソン(William Rawlinson)兼任教授は、これらの類似性は、ウイルスが環境や外部からの圧力に関係なく、自然に特定の変化を起こす可能性があることを示唆していると語った。
同兼任教授は、この研究はウイルスが現実世界でどのように進化するかを反映しているが、その進化を加速させるものではないと強調した。また、制御された実験室環境では、免疫圧力に適応する現実世界よりも、ウイルスが有害な遺伝的変化を発達させるリスクが低いと付け加えた。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部