2025年07月
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深海採掘の評価基準を策定、持続可能性や長期影響を検討 豪CSIRO

オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)は7月3日、太平洋中央のクラリオン・クリッパートン海域(CCZ)における深海採掘の環境リスクと実行可能性を評価する科学的ツールと管理フレームワークを開発したと発表した。

深海は、地球上で最も理解が進んでいない生態系の一つである。CSIROは国内のグリフィス大学、ビクトリア博物館、サンシャインコースト大学、そしてニュージーランド地球科学研究所などと連携し、CCZを対象とした生態系ベースの管理(EBM)アプローチを構築した。

本研究は、海底鉱物の商業採掘に関する意思決定を支援するために設計されたもので、採掘を推奨するものではない。科学的知見を通じて持続可能性や責任、長期的な影響を慎重に検討する土台を提供することを目的としている。成果は8本の報告書にまとめられ、すべて公開されている。

研究では、信号システムを用いて「重大な損害」を定義し、軽微な影響は緑、中程度はオレンジ、回復不能な損害は赤で表示する。これにより、規制当局がいつ介入すべきかを判断する基準が明確になる。また、CCZ全体の生態系モデルを構築し、深海採掘の影響が海底に局所的である可能性を示した。

CSIROの上級主席研究科学者であるピアーズ・ダンスタン(Piers Dunstan)博士は「科学的な判断材料があれば、意思決定者に偏りのない情報を提供できます。異なる意見がある中で信頼できる情報源を持つことは非常に重要です」と語った。

モデルと観察結果からは、水深1000~3000mの深海域と表層海域の間には隔たりがあり、採掘の影響が外洋にまで及ぶ可能性は低いとされる。一方で、採掘による撹乱からの回復速度には種ごとに差があり、全く回復しない可能性も指摘された。

同博士は「本研究は、深海のように不確実性が大きい環境においても、科学によりリスク評価と責任ある判断が可能であることを示しました」と述べ、今後の環境政策への活用に期待を寄せた。

クラリオン・クリッパートン帯(約600万km2に及ぶ太平洋の広大な領域で、アメリカ合衆国(ハワイ)、キリバス、フランス、メキシコの排他的経済水域を越えた地域)における海洋と海底生態系の構造モデル。このモデルは、2つのサブシステムと5つの生態系タイプにわたる生態系成分と相互作用を示している
Credit: Hyman et al. 2025 (出典:CSIRO)

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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