アジアのチェンジメーカー:持続可能な計画的都市づくりで偉業を達成するポメロイ教授

2021年7月8日 AsianScientist

持続可能なデサインを通じて、ジェイソン・ポメロイ(Jason Pomeroy)教授は創造性と研究を融合させ、地球への負荷を最小限に抑えながら建築分野で偉業を成し遂げている。

AsianScientist - 現代都市は、ドバイのブルジュ・ハリファのようにそびえ立つ超高層ビルや、日本のさいたまスーパーアリーナのような複雑で幾何学的なドームによって光り輝いている。しかし、この造られた世界の美しさには環境面での莫大なコストが付き物である。2020年には、全世界のエネルギー消費量の35%、二酸化炭素(CO2)排出量の40%近くを建築業界が占めていた。

土地利用のための森林伐採から石炭などの再生不能エネルギー源の利用に至るまで、ビルの建設と日々の運用は莫大な量の二酸化炭素を生み、気候変動緩和に向けた世界的な努力を損なうものである。このまま放置すれば温暖化と資源の枯渇が進み、健康、食糧生産、ひいては経済全体の発展といった重要な領域を脅かすことになる。

しかし、そのようなトレードオフが当然のことである必要はない。建築環境とは、その開発段階において空間から社会までのさまざまな要素を合わせて考慮に入れながら、持続可能性をめざして設計することができ、またそうすべきである。ジェイソン・ポメロイ教授はそう考えている。

この包括的な枠組みは、シンガポールを拠点としたサステナブル建築事務所である「ポメロイ・スタジオ」と、教育提供機関「ポメロイ・アカデミー」の創始者としての彼の仕事に反映されている。環境問題にいろいろな方向から取り組むためにテレビ番組の司会、英国のノッティンガム大学とオーストラリアのジェームズ・クック大学で教授を務めるなど、多彩な分野で活躍している。

ポメロイ教授にとって、持続可能な開発とは過去から教訓を引き出し、現在のニーズを念頭において設計し、未来の世代に関連する原理を伝えていく、時間軸にまたがる取り組みである。その目指す先にあるのは、文化と歴史からインスピレーションを得て、産業から娯楽に至る幅広いコミュニティ活動を容易に支えることができる人間中心の環境である。

「伝統的な建築物を目にすると、それらは時の試練に耐え抜いてきた製品であることがわかります。自然光に照らされ、自然な換気があり、地元の素材を利用した、儀式や文化的な慣習に忠実なものです」とポメロイ教授は語る。

ポメロイ教授は建築活動に科学的厳密さを取り入れて、エビデンスベースの学際的サステナブルデザインと呼ばれるアプローチを進めている。このアプローチで基本となっているのは数値であり、彼のチームはそれぞれの地域における緑地面積、日照強度及び空気循環などのパラメータを測定している。

「自然光を最大限に取り入れ、自然な空気の流れを最適化して建築物を形作る手段として科学を取り入れる能力と研究材料のおかげで、環境面でより持続可能なものを生み出すことができています」とポメロイ教授は言う。

ポメロイ教授は、エビデンスベースの学際的なサステナブルデザインにより、エネルギー消費量を削減し、シンガポールのブキッティマにある「Bハウス」のようなゼロ・カーボン開発の青写真を描くことができると説明している。このバンガロー風の住宅は、大きな窓が壁として使われているのが特徴的で、非 再生可能エネルギー源を燃焼させる代わりに自然光をふんだんに取り入れ、太陽光パネルで発電している。

エネルギー消費の相殺に加えてポメロイ教授のプロジェクトの特徴の一つに挙げられるのが、廊下やバルコニーに沿って緑を配置するなどの都市構造と自然環境のシームレスな統合である。ますます密集が進む都市環境に、ポメロイ教授が作り出したのは、ビルの屋上のスカイガーデンや活気のある風景の真ん中に開かれた中庭などによるオープンスペースであった。

ポメロイ・スタジオが世界に展開するにつれ、その土地の気候も建築に反映されている。ほっそりとした花弁を思わせるマレーシアのチューリップタワーの日除けとなる湾曲した壁。また、屋上にウィンターガーデンを備えた高層のCandy Factoryレジデンスにある手すりつきのテラスは、スウェーデンの夏と冬の気候に対応可能である。

さらに大きな規模では、ポメロイ教授のチームはマスタープランニングの分野でもその地位を確立しつつある。例えば、インドネシアではサッカー場が130個入るほどの広さに相当する、100ヘクタールの壮大な教育地区を開発している。彼らのビジョンは海にまで及んでおり、ポメロイ・アカデミーと共同で行っているPod Off-Gridプロジェクトを通じて海上コミュニティを配置している。

ポメロイ・アカデミーでは、研究者も産業の専門家もサステナブルデザインに関する短期のオンラインコースを受講できる。ただし、都市を住みやすいものにするためには、民間も政府もパラダイムシフトを起こす必要があるとポメロイ教授は指摘する。

そのため、彼は著書を執筆したり、会議に出席し持続可能な都市のあり方についてアイデアを共有したりするなど、広く社会とも積極的に関わっている。環境に留意したデザインの利点を強調することで、もっと多くの人々が環境に配慮することの価値を認識するようになってほしいと願っている。

気候変動を背景に、建築環境業界ではポメロイ教授のような先進性のある人が持続可能性にスポットを当てる方向に舵取りをしている。彼らは、我々の都市が如何に見え、運営され、コミュニティの交流を生み出しているかを再考している。それによってこの惑星の資源を枯渇させることなく、現在及び未来の世代の需要を満たす居住・作業空間を最適にデザインできる。

「デザインには、未来を永久に形作るという力があります」「もし何か行動するための十分な理由があれば、それを伝えてインフルエンサ-となり、世界をよい方向に変えて行くことができるでしょう」

ポメロイ教授はこのように期待している。

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