量子、研究室から生活の場に飛躍的に進歩

2021年12月20日 AsianScientist

遠い未来を見つめる必要はない。量子テクノロジーは、通信や生物医学などのさまざまな分野で、すでにアジアに刺激的なソリューションをもたらしている。

AsianScientist - 2021年初頭、中国は世界初の統合量子通信ネットワークの本拠地となり、なんと4,600キロメートルにわたってハッキング不可能なデータ伝送を可能とした。この驚くべき成果は、一連の量子研究の中で最新の偉業である。

2016年には中国初の量子通信衛星を打ち上げ、翌年、北京と上海の間に最長の地上量子ネットワークを確立した。

これらの信じられないほどの世界記録の背後にいる首謀者(?)は、潘建偉 (Pan Jianwei) 教授である。潘教授は中国科学技術大学 (USTC) の量子物理学者であり、すでに地元では「量子の父」と呼ばれている。アジア全体で、彼と共に量子テクノロジーの扉を開こうとする科学者が増えている。

例えば、アレクサンダー・リン (Alexander Ling) 博士がいる。リン博士はシンガポールの量子工学プログラムの責任者であり、安全な高速通信ネットワークを構築するにあたり費用効果の高い手段として超小型衛星の検証を行っている。

一方、ラマン研究所のウルバシ・シンバ(Urbasi Sinha) 教授は、インドの最初の量子研究所の1つを創設した人物である。最近、建物間の空間を介して量子暗号化データを転送する実験を主導し、インドで初めて成功した。

しかし、量子についての話題は尽きないものの、それは正確には何なのか、そして何の役に立つのだろうか? 本記事では、研究者や業界のリーダーがなぜ量子の可能性を活用し、新しいテクノロジーを研究室から日常生活に取り入れようとしているのかをお伝えする。

量子の基礎を謎解きする

量子テクノロジーの中核にあるのは、量子情報の基本単位としても知られる量子ビットである。バイナリ状態が0または1である従来のコンピュータのビットとは異なり、量子ビットは、回転時に表と裏が混ざり合っているように見えるコインのように、同時に複数の状態として存在できる。コインが落ち着くと片面が現れるのと同じように、量子ビットの観測時は1つの状態にのみに落ち着いている。

目に見えないスレッドがリンクを作るのと同様、ある場所での1つの量子ビットの状態に、遠く離れた別の量子ビットの特性を反映させることもできる。アルバート・アインシュタインが「不気味」と言い放ったこの現象はもつれと呼ばれ、科学者が別々の物質を一度にモニターしたり操作したりすることを可能にする。

超長距離テレビのリモコンや、もっと効率性のいいGoogle Homeシステムが遠くから情報を教えてくれると想像していただきたい。しかも、それは対となる要素を直接見る必要はない。多くの量子ビットが絡み合うにつれて、あり得る状態の数も指数関数的に増加し、従来のコンピュータよりもはるかに速い速度で、複数の計算を並行して実行できるようになる。しかし、それらは非常に不安定なので、崩壊してエラーが発生しやすいシステムの生成を防ぐためには協力して取り組むことが必要である。

これらの奇妙な特性と従来にない機能を持つため、量子の働き方は魔法のように見えるかもしれない。量子原理の複雑性についてはまだ研究中であるが、アジアの科学者はすでに一度に1量子ビットずつ状況を変えつつある。健康状態の改善から持続可能なエネルギーの使用まで、量子を利用した未来はアジアにとって手の届くところにある。

コンピューティングの限界から脱却

量子の超高速計算は有望であるが、テクノロジーの大手であるグーグルとIBMが話題の中心となっていることから、量子ができることはコンピューティングだけであるように感じるかもしれない。しかし、研究者がその特性を制御し、操作することを学ぶにつれて、量子の応用は情報処理の範囲を超え、広がりつつある。

一つには、量子超越性と呼ばれるとらえどころのない状態を実現することができた。量子超越性を持つことから、量子コンピュータは、古典コンピュータでは不可能な計算を解くことができる。何と言っても、非常に大きなデータセットは、従来のコンピュータよりも速い処理速度と多くの作業メモリを必要とする。

量子コンピュータでは、量子ビットが接続されると広大な多次元空間が形成され、すべてのデータを保持し、複雑な問題全体を表すことができる。パターン発見はすべての可能な組み合わせを実行する問題であるため、量子コンピュータは数秒で複雑な操作を実行できる。一度に1つのソリューションしか確認できない従来のコンピュータとは対照的に、複数の量子ビットがデータを同時に精査する。

量子超越性の達成についてはさまざまな意見があるが、スケーラブル量子プロセッサの開発は急速に進んでいる。現在、Googleの50量子ビットのSycamoreやIBMのノイズ感度の低いトランスモン量子ビットシステムなどといった最先端アプリケーションは、ノイズの多い中間スケールの量子に分類される。なぜなら、これらはハードウェアの限界を突破しておらず、まだ完全にエラーフリーではないためである。

しかし、これらのコンピューティングサービスは現在、世界中の研究者が利用できるようになっており、承認されたプロジェクトでリモートで使用すれば、量子コンピューティングを最適化された状態に進化させることができる。

量子の秘密は守れるか?

デジタル時代では、文字、ピクセル、音声のいずれかの形式でデータを転送し、通信する。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの期間にインターネットの使用が拡大するにつれて、サイバー犯罪の発生率も世界で6倍に急増した。

デジタル化が進むについれてデータプライバシーへの脅威が高まる一方、量子セキュア通信であれば接続を保護できる。現在開発されている量子通信は、長距離での確実な量子ビット送信に焦点を合わせているだけでなく、構築されたネットワークがハッキングされないことを確保する。

セキュリティ侵害からの保護を目的として、量子鍵配送 (QKD) は、現在表示されている単語のようなプレーンテキストを識別可能なパターンのないランダムなコードに変換し、データを暗号化する。送信されたメッセージを解読し暗号化する秘密鍵を知っているのは、もつれた状態になった2人の当事者だけである。

たとえば、日本の東芝のQKDシステムはすでに展開可能であり、100kmのファイバー接続を介して毎秒100ギガバイトのデータを送信する。

過度センシング

おそらく、量子テクノロジーの最も大きな利点の1つは、離れた場所で機能し、小さな動きや環境条件の変化をリモートで正確に感知できる能力である。主に磁場と電場を検出し、温度や加速度などのパラメーターを測定するために、荷電粒子から回路まで一揃いの量子センサーが働く。

問題は、これらが持つ高い感度がアキレス腱にもなるということである。多くの外部要因がリモートセンシングの邪魔になる可能性があり、現在、ほとんどの量子センサは拾うかもしれない不要な信号をフィルタ除去できるほどの十分な堅牢性を備えていない。研究者たちはこの分野の最前線をさらに進めるために、システムによって生成されるデータのノイズを最小限に抑えつつ、検出範囲を拡大する努力をしている。

うまく制御された設定の中では、量子センサはすでに核磁気共鳴 (NMR) 分光法と磁気共鳴画像法 (MRI) スキャンで使用されている。特筆すべきこととして、これらの機器を使うと非侵襲的な方法で脳の活動をモニタリングできるため、精度を損なうことなく、より安全で快適な患者体験が可能ということが挙げられる。