AI・ブロックチェーン・QRコードで食品偽装を防止

AsianScientist-アジアと世界で将来の食品偽装を阻止するために、ブロックチェーンや人工知能(AI)などのイノベーションは、偽装を防ぎ、実際に食卓に上るものについての不安を軽減してくれるだろう。

サプライチェーンでは、どの参加者も独立していることはない。そのため、最も弱いリンクでボトルネックが発生すると、ドミノ倒しのようにネットワーク全体が倒れる可能性がある。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生により国境が閉鎖されたとき、シンガポールなど食品を輸入に頼っている国々では海外から現地のスーパーへの食品の輸送コストが上昇し、消費財の価格が急騰した。一方、マレーシアのように農産物を大量に輸出している国々では、積み重ねられた農産物が海外の消費者に届くことなく腐敗したため、大きな損失を被った。

適切な食料供給が急がれる中、食品の真正性を監視するという規制の取り組みは後回しにされ、食料システムは偽装や粗悪化に対して脆弱になっていった。パンデミックによりサプライチェーンが混乱し、オンラインショッピングに移行する中、食品の調達と配達が注目された。しかし、食品偽装の問題は、消費者の認識不足と厳しい試験方法がないために、今までも存在していたと考えられる。

中国で2008年、悪名高い汚染ミルク騒動が発生した。複数の乳製品メーカーが乳児用調製粉乳を希釈し、低下したタンパク質含有量を補うためにメラミンと呼ばれる化学物質を添加したため、世界中の注目を集めた。汚染ミルクを摂取した30万人近くの子供たちが病気になり、5万人以上が腎臓損傷と尿路損傷により入院した。

開かれた世界でますます多くの消費者がオンラインショッピングを利用するようになってきた中、食品サプライチェーンの信頼性を保つことは世界でも国内でも最も重要なこととなっている。現在、アジアの研究者と産業界のリーダーは、農場から食卓までの食品信頼性を確保できる、絶対確実なイノベーションを開発する責任を担っている。本記事では、AI やブロックチェーンシステムなど、計画中の興味深い新技術をいくつか取り上げる。

汚染物質を管理する

インスタント食品からトッピング、スパイスまでさまざまな食品が市場に参入するようになった。それと同様に、砂などの物理的物質、染料などの化学物質、微生物などの生物まで、汚染物質の種類も多様化してきた。インド農業研究委員会の主任科学者であるサンギタ・バンサル (Sangita Bansal) 博士は、粗悪化の定義には成分の追加や代替だけでなく、消費者が製品に期待する必須成分を取り除くことも含めると指摘する。

汚染を取り除くために、食品は徹底的な品質管理 (QC) の対象となる。ただし、バンサル博士は、安全性と信頼性を確保するために各製品分野は非常に専門的な方法を必要とすると述べる。 たとえば、DNAバーコードは組織サンプルの遺伝子配列を分析し、非常に近い種を区別したり、微生物の侵入を検出したりできる優れたツールであり、食品偽装の増加を明らかにした。中国では2018年、DNAバーコードを使用した研究者チームが、魚の切り身を偽装表示した30を超える民間会社を発表した。

しかし、この方法は、ポリメラーゼ連鎖反応 (PCR) (標的遺伝子セグメントの複数のコピーを作成する技術)を使用するため、感熱反応を実行し、ゲル電気泳動を利用してDNAバンドを表示するためにサーマルサイクラーなどの高度な実験装置を使用する。

DNAバーコードは汎用性は高いものの、コストは高く、DNAを抽出してPCR検査を実行するには高度な訓練を受けたスタッフを必要とする。本来、PCRでは試薬の条件を正確に把握する必要がある。習熟度が低いスタッフが実行すると、間違ったDNAセグメントを増幅し、検査を再度行い、資源を不必要に使うことになる。

バンサル博士によると、ループ媒介等温増幅法 (LAMP) と呼ばれる手法を使うと、PCRに必要な高価な機器や多くの試薬は不要になる。 ループ構造のDNA領域で反応を繰り返すことで遺伝子をコピーし、その後、色素を加えて肉眼で結果を視覚化することができる。

バンサル博士は「反応は一定の温度で起こり、濁度、発色、または蛍光に基づいて直接観察を行うことができます。LAMPを使うと必要なものはあまりなく、現場での品質検出に使用できます」と説明する。

バーコードの他に、AIを利用した食品フィンガープリントも、QC分野における新しいテクノロジーである。これはシンガポールを拠点とする食品成分分析会社であるProfilePrint社が特許を取得したイノベーションであり、職人が関わるコーヒー豆、ココア、茶葉などの製品について、通常は専門家が対面で行う食品のグレーディングを、携帯可能なAIに置き換えたものである。これらの製品は広く消費され、ほんのわずかな変化でも高級品質の原料の質が変わり粗悪化する傾向があるため、詳しく調べられることが多い。

ProfilePrint社のソフトウェアは、製品の成分の化学的特徴を捉え、AIアルゴリズムを実行し、味覚プロファイルなどの品質を認証し予測する。この技術は原材料の調達や一貫性の確保に役立つだけでなく、望ましい官能プロファイルにするために製品組成の調整をアドバイスし、製品開発を加速させることができる。

同社はグレーディング専門家の指導のもとでAIモデルに学習させ、利用しやすいプラットフォームを開発した。このプラットフォームは食品グレーディングのノウハウを一般化し、QC結果を単一のデジタルフィンガープリントとして提供する、便利なものである。

食品認証は、フィンガープリントのような資源効率の良い非破壊検査に急速に変わりつつあり、食品の品質を検査するにあたり物理的なサンプルはもはや必要ない。とはいえ、このような新しい技術がうまくいく場合、各分子の化学スペクトルなどといった等級基準を確立することから始まることが多い。

「使用される各成分と最終食製品には、仕様と参照基準が必要です。検査は供給元から開始する必要がありますが、希釈して他の成分と混合した後、トレーサビリティも必要です」とバンサル博士。

透明性と信頼を提供する

取引のつながりは広範であることから、食品偽装は流通中のどの時点でも発生する可能性がある。トレーサビリティはサプライチェーンの安全性について、複雑でありながら重要な要素になる。

中国の華中農業大学のハン・シオン (Hang Xiong) 教授は「食品サプライチェーンには、さまざまな段階で関係者が情報を共有できる構造がありません。たとえ簡単な食品であっても、数多くの関係者が世界中に散らばり、お互いの行動についてほとんど、あるいはまったく知ることはないでしょう」と話す。

サプライチェーンの各部分は製品の受け渡しのときに互いに繋がり合うが、特に機密情報が含まれ、管理システムが標準化されていなければ、情報交換に時間がかかり、多くの場合扱いにくいものになる。

しかし、サプライチェーンの透明性および企業の専有データの保護と、現在食品産業で脚光を浴びているブロックチェーン技術は、トレードオフの関係であると考える必要はない。ブロックチェーンと聞くと暗号通貨を連想することが多いが、一般的には、共有されているが安全な台帳を作る技術を意味する。データは鎖でつながり暗号化されたブロックとして保存され、一つのネットワーク全体でデータが追跡できる作りとなっている。

食品トレーサビリティは現在、「容易に改ざん可能であり効果の低い表示システム」に依存しているが、透明性を高めたブロックチェーン技術を使えば食品トレーサビリティに革命をもたらすことができる。ブロックチェーンであれば、センサーを使って製品をリモートで評価する無線周波数識別 (RFID) 技術などといった他のイノベーションと組み合わせて使用できる。

「ブロックチェーンはデータプライバシーを提供し、第三者の介入を減らすことで、信頼性の高いプラットフォームを実現します。透明性があり、安全で、消費者の信頼を再構築することができます」とハン教授は付け加える。

たとえば、インドネシアを拠点とするAlko Sumatra Kopi社は、QRコードのブロックチェーンシステムを使用して、すべて単一の生産者から供給されたスペシャルグレードのコーヒー豆を輸出している。含まれる 欠点豆は3つ以下である。利害関係者はQRコードをスキャンして栽培地のウェブサイトのデータにアクセスし、収穫時期、焙煎方法、味、香りの特徴を知ることができる。それぞれについて、サプライチェーン全体の信頼性を検証できる。

汚染から偽表示まで、いくつもの食品偽装問題を経験した後、中国の食品市場は現在、ブロックチェーントレーサビリティを使い、食品の生産、保管、配送を監視している。中国で2番目に大きい食品会社であるブライトフードグループは、ブロックチェーンを使用して海外調達を簡素化し、国内市場の物流データを記録して、海外から地元に至るサプライチェーンの可視性を高めている。広州市では、政府のブロックチェーントレーサビリティシステムが市内にある90の農業市場に備えつけられ、8,000以上の事業者を経由する商品の流れを監視している。

食の安全を確保するために、このシステムは収穫日や規制当局の承認など、農産物に関する情報を収集する。その他、スーパーマーケット企業であるウォルマートとブロックチェーン会社のVeChainは、スキャンできるバーコードを使用したトレーサビリティシステムを開発し、市場に出ている製品の半分以上を占めるパック詰め肉製品について、消費者が各製品の生産地、検査、流通データを確認できるようにしている。

食品偽装を阻止する

シンガポールに本社を置くデジタルマーケティング企業であるOneAgrix社は、安定剤などといった原料からインスタント食品まで、ブロックチェーンの力を利用して、製品の品質だけでなく認証機関に関する情報も収集し、ハラル製品の完全性を確保している。

今まで、ハラル食品のサプライチェーンは規制遵守だけを考えていた。だが、ブロックチェーンは、ハラル食品サプライチェーンにリアルタイムの可視性を与え、変革を引き起こしている。しかし、マレーシアのケバンサーン大学の准教授であるモハド・ヘルミ・アリ(Mohd Helmi Ali) 博士は、Asian Scientist Magazine 誌に対し、認証制度は権限ある当局の信頼性だけに依存しているため、操作される可能性はまだ残っていると述べた。

マレーシアでは、政府職員と多くの企業が、輸入された馬肉、カンガルー肉、豚肉を誤ってハラル認証牛肉として表示し、これらの肉が販売されていた。認証状況を疑問視する動きはなく、偽装問題は40年間も野放しにされ、昨年2020年12月にようやく告発がなされた。

認証データだけでなく、ブロックチェーンはサプライチェーンの各段階の動きを、介入機関を必要とせずに追跡できるため、偽装を回避し、操作に抵抗することができる。さらに、センサーが動きや温度などの環境データを中継することで、製品の配送状況を効果的に監視し、交差汚染や偽造を捉えることができる。

アリ博士は、多くの分野でブロックチェーンを採用すれば、ハラル食品全体のトレーサビリティを強化するという約束を実現する鍵となると考える。

「サプライチェーンでリンクが失われれば、ブロックチェーンは最適に機能しません。企業がデータ共有とデジタル接続を受け入れるようにならなければ、信頼できる提携は実現しません」(アリ博士)

これらのソリューションが登場したことにより、食品信頼性に対する意識が刺激され、必要な進歩がなされたが、偽装に対する唯一の効果的な方法というわけではない、とバンサル博士は述べる。

先のハン教授は、アジアや世界の現在の食品サプライチェーンを変えるには、ブロックチェーンのようなイノベーションを採用できるエコシステムに投資し、構築することだと考えている。「インフラを構築し、追跡用のアイテムを追加するには時間がかかります。センサーやRFIDタグのコストが高いことなど、ブロックチェーン以外に考慮すべき問題がたくさんあります」とハン教授は述べる。

持続可能な食品の調達と流通に対する消費者の意識が高まるにつれ、食卓に届くものがパッケージに記載されている通りであるという保証を求め続けるようになるだろう。将来の不祥事を防止し、介入するために、アジアの研究部門と産業部門は食品偽装を阻止するために協力し、地元での透明性から始めて、徐々に広い地域や世界全体のトレーサビリティへと移行している。

「持続可能なサプライチェーン管理では、すべての参加者がその役割を効果的に遂行する必要があると頭に入れておく必要があります」とアリ博士は話す。

テクノロジーは、品質の評価と、消費者が評価情報をすぐに利用可能にするという両方で重要な役割を果たし、食品信頼性を守るという国境を越えた協力によって促進される。

(2022年05月24日公開)

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