AsianScientist-IoT(モノのインターネット)用デバイスの数が増え続けている中、イノベーターたちは、電力供給を確保する有望な方法となる「環境発電(energy harvesting)」の研究を進めている。
IoT はホームハブやスマートサーモスタットから多数の産業デバイスや農業デバイスに至るまで接続し、私たちの生活のほぼすべてに浸透している。抵抗しても無駄である。世界ではIoTデバイスの使用が2030年までに3倍になり、250億を超えると予測されており、接続も増加を続けると予想される。
これらのIoTデバイスを実際に使用するにはインターネットと電力が欠かせない。 現在、多くのデバイスはコストと利便性のために、使い捨ての非充電式電池を使いエネルギーを得ている。しかし、IoTデバイスの普及がますます加速し電池寿命を延ばす努力も追いつかない中で、交換が必要な使い捨て電池は、持続可能なIoTエコシステムと相容れないことは明らかである。
迫りくるIoTデバイスの奔流が引き起こす問題の解決にあたり、イノベーターたちは環境発電に注目している。本記事では、IoTを活用した持続可能な未来の推進に役立つ環境発電の課題と機会を探る。
環境発電の動作原理はシンプルである。周囲にあるエネルギーを電気に変換し、IoTデバイスに送り、電力を供給する。電池を交換することはない。材料と技術の進歩により、機械的運動、電磁波、熱勾配など、さまざまなエネルギー源を利用してIoTデバイスに電力を供給できる。
利用可能な方法の中でも最も簡単な方法は、運動や振動などの機械的エネルギーを電気エネルギーに変換する運動環境発電である。この方法は、動いているものや振動するものに取り付けて使用するIoTデバイスに特に適している。例えば、摩擦帯電スマートマットは、ユーザーの運動体験を向上させ、安全を確保すると同時に、周囲にある他のIoTデバイスの電源として機能する。
同様に、無線周波数 (RF)も、有効な電力源となり得るかもしれない。RFは目に見えないがワイヤレスのテキストメッセージ送信や動画配信サービスに不可欠なものである。この方法はRF環境発電と呼ばれ、入射したRF放射から受け取ったエネルギーをデバイスの動力に変換する。
RFエネルギーは、Wi-Fi信号などのワイヤレスデータ転送で使用される周囲のRF信号から、またはワイヤレス充電用に生成された専用のRF放射(専用のワイヤレス電力伝送ネットワークからのものなど)から利用できる。RF環境発電機などさまざまな革新的テクノロジーがあれば、中央ハブからエネルギーを得て、それを直流に変換することができる。RF エネルギーは、センサーの動作寿命を延ばすための長距離ワイヤレス給電に応用できる。
その他、熱流束もうまく利用することができる。 熱電発電機 (TEG) は、2つの表面間の温度勾配により電気が生成されるゼーベック効果を利用して電気を発生させるように設計されている。たとえば、MATRIX 社のPrometheus TEGは、小さな温度勾配から電気出力を得られるため、ウェアラブル機器、産業プロセス監視、および排熱の収集に最適である。
これらの環境発電技術にはIoTエコシステムを変える可能性があるにもかかわらず、困難があるため、非充電式電池に取って代わることは難しい。
困難の1つとして、周囲の電源の強さは一定しておらず、弱いことが多いため、環境発電機から出力される電力が不安定になる可能性が挙げられる。したがって、適切な電圧を生成してIoTデバイスに供給し、またはエネルギー貯蔵部分に転送するには、超低入力電圧を受け入れる電力調整回路または昇圧器が必要である。
克服すべきもう1つの重要な困難は、周囲エネルギーが変化し、不足に陥ったときにIoTデバイスの動作が中断される可能性である。この問題に対処するには、二次電池やスーパーキャパシターなどといったエネルギー貯蔵部分が、IoTデバイスに電力を供給し続ける必要がある。
例えば、エネルギー密度の高い固体超薄型二次電池を使用することができる。この電池は柔軟性と可屈曲性を持つので、小型のIoTデバイスに統合することも容易である。
環境発電機は二次電池の充電に使用できるため、外部充電器や頻繁な電池交換を必要としない。環境発電源、二次電池、およびIoTデバイスとのインターフェイスを作る集積回路があることから、電池は完全に充電され、電力管理システムが出来上がる。
最終的に、環境発電につきものの不安定性を克服するには、環境発電技術とエネルギー貯蔵部分を組み合わせたハイブリッドソリューションが求められる。
環境発電は、長期間無人で稼働するIoTエコシステムに電力を供給できる。現在は環境発電機の導入を制限する困難がいくつもあるが、イノベーションソリューションにより、メンテナンスを必要とせず永続的に電気が供給されるIoTデバイスを作ることができる。
(2022年06月10日公開)