自立型コンテナで栽培、ロボットが自動収穫...アジアの農業、最新技術で生産性向上

AsianScientist-新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のために世界中の食品サプライチェーンは混乱したが、アジアの農業は革新的なアプリや自動ロボットなどを提供する農業技術(アグリテック)のおかげで生産性を高め続けている。

珍味として出されると、コオロギは想像していたものよりもずっと敷居の低いスナックに見える。炒めて味付けし、6本の足と翼のほとんどを取り除いた後は、以前は這ったり飛んだりしていた昆虫とは思えず、穀物やナッツによく似ている。

コオロギはかなりのカリカリ感があり、上質でまろやかなナッツのような味がしておいしいと思う人たちもいる。さらに、コオロギは健康食である。研究によると、コオロギは牛肉よりも重量あたりの鉄分とタンパク質が多く含まれているが、育てるために必要な土地と資源は少なくて済む。

これらは、代替タンパク質源としての昆虫の人気が高まっている理由のごく一部である。しかし、25グラムのパックで6.42シンガポールドル(約600円)という価格は、決して安いとは言えない。同様に、植物由来のタンパク質は畜産肉の代替となる持続可能なソリューションとして宣伝されているが、その価格の高さと入手しにくいことから、真の代替品というよりも贅沢なご馳走になっている。

実現可能性の高いソリューションを使い食料安全保障を達成するには、基本に立ち返るのが賢明である。テクノロジーによる農業の変革、つまりアグリテックを利用することである。未来的な名前ではあるが、アグリテックは新しいものではない。人類の文明が食のために作物を栽培する限り、単純な交配から遺伝子組み換えまで、技術を使用して植物の栄養価を高く、豊かなものにしている。

現代のアグリテックは、人工知能 (AI)、ドローンテクノロジー、自動化などのイノベーションを従来の方法に組み込んでいる。農業も科学も多彩に進歩している大陸であるアジアでのアグリテック・イノベーションの多様性を調べ、農業の未来を垣間見てみたい。

農業は屋内の上層に向かう

スーパーで生鮮食品を見るとき、ブロッコリーやホウレンソウの生産地について考えることはほとんどない。しかし、COVID-19パンデミックにより、生鮮食品の出所について再考せざるを得なくなった。

パンデミックの中、自国の食料を生産できず、輸入に依存している国は、サプライチェーンの混乱に対して脆弱であることが示された。残念ながら、農業は昔から広大な農地という広がる区画を必要とする仕事であり、都市化が進み土地が不足している国にとっては課題となっている。

ソリューションは何か?屋内垂直農法である。農場を屋内に移動させ、垂直方向のスペースを利用して作物を栽培することである。屋内農場は食料を生産する土地が限られている国にとって、農業可能性の最大化を意味する。

シンガポールはすでに屋内農場を積極的に行っているものの、今のところ、食品のかなりを輸入に依存しており、国内で生産される食品はわずか10%である。2030年までに食料生産を30%増やすために、シンガポールは、屋内農業を重要な戦略としている。Sustenir AgricultureやArtisan Greenなどすでに垂直農法を実践している農場がいくつか存在しており、市内の建物で新鮮なハーブやサラダの葉を生産している。

その他、Indoor Farm Factory Innovationなどといった新興企業は、屋内農業プロセスを改善する技術とシステムの開発に力を入れている。これら企業の技術は、さまざまな作物を栽培するためにカスタマイズされたLED照明、作物の収穫量と品質を向上させる最適な水処理、環境モニタリング、農業プロセスを簡素化する未来型ロボットシステム、AI自動化など多岐にわたっている。

もっとスマートな方法で植物を育てる

屋内垂直農法は農業スペースの異なる使い方として有効かもしれないが、あらゆる農業は人の力を必要とすることに変わりはない。小さな国の場合、これは土地の利用可能性だけでなく、農業生産も小さな労働力によって制限される可能性を意味する。この問題に取り組むために、台湾を拠点とする企業であるNew Gardenは、AIテクノロジーとIoT(モノのインターネット) のハードウェアを組み合わせた独自のエコシステムを利用して、人力への依存を最小限に抑える高度な農業ツールを製造している。

New Gardenは、スマートAIガードナーというものを提供している。これは、スマート照明、給水システム、複数の接続センサーを備えた自立型の植物コンテナ( self-sustained plant container)である。それ自体が植物データをリアルタイムで収集し、処理して、作物をインテリジェントな方法で栽培する。人間は必要ない。

マレーシアでは、IBMが同様に、データの収集と分析にAIとIoTを組み合わせたアプローチを使おうとしているが、規模はもっと大きい。Watson Decision Platform for Agricultureは、人工衛星や農機に組み込まれたIoTセンサーを通じて収集した農場データを総合的に記録する。

その後、データをAIや機械学習アルゴリズムで分析し、農場での意思決定につながる情報や推奨事項を自動的に生成する。IBMは、このプラットフォームを展開することで、収益性と効率性の高い農場を約束するスマート農業と精密農業の時代の到来を告げようとしている。

手を使わない収穫

誰もが日本はロボット愛好国であることを知っている。日本には巨大なロボット像、ロボットカフェがあり、ロボットペットもいる。しかし、ロボットは娯楽を提供するだけではなく、極めて現実的な問題に対処することも可能である。労働力が高齢化しても、農場の運営を続けることができる。たとえば、収穫は農作業の中でも骨の折れる部分である。作物を収集するという物理的な作業に加えて、収穫できる作物を見極める人間の意思決定が必要である。日本のような高齢化社会の国では、これらの課題が農業生産を抑える要因となりやすい。しかし、マシンビジョン、AI、ロボット工学が進歩したため、労働者不足にもかかわらず、自律型ロボットがあるので農業はより生産的な方向に向かっている。

日本では、パナソニックをはじめとする企業やinahoなどの技術系新興企業によって開発された自動野菜収穫ロボット(まさにその通り!)が、すでに人気のソリューションとなっている。ナビゲーション技術を使用して農場を駆け抜け、収穫時期を迎えた農産物を自分自身だけで探しているinahoのロボットを検討してみるのはいかがだろうか。

ロボットの視覚システムには高度なAIアルゴリズムが備わり、色とサイズに基づいて収穫に適した野菜を識別する。その後、inaho独自の機械が野菜を収穫する。このロボットは、人間が入力しなくともトマト、ピーマン、アスパラガスの最適な収穫時期を決定できることがすでに証明されている。

様々なクラウドを使った水やり

多くの人が室内で観葉植物を育てているが、1年半もすれば水やりのスケジュールを守り、育てることは難しいことが分かってくる。

適切な水やり、つまり灌漑は、植物を大切に育て健康に保つために重要である。同じことが農場にも当てはまる。食料安全保障のためには食料生産を十分かつ持続可能なものにしなければならないが、水などの環境資源を枯渇させることなく栄養ニーズを満たす必要がある。食の未来を考える上で、灌漑は確かに重要なポイントになる。

天然資源に大きな負担をかけることなく、食糧生産量を増加させることができる技術がある。スリランカでは、地元のスタートアップ企業であるSenzAgroが、さまざまな環境条件に適応して必要な水の量を最適に配分する自動灌漑システムによって、農業用水の使用量を削減しようとしている。高度な土壌センサー技術とクラウドベースの分析機能をマイクロ灌漑機能に統合させたこのシステムは、都市部の小規模な屋内農業と従来の露地農業の両方に対応することができる。

農場センサーと分析を相互接続して組み合わせることで、多くの情報に基づいて農業管理が行われる。上手な灌漑が可能となり、最終的に持続可能な水の使用が可能になる。さらに、クラウド接続の給水システムはSenzAgroのプラットフォームを介して制御されているので、農家は作物をリモートで監視して世話をして、環境に対する移動負荷をさらに削減できる。

テクノロジーを農村に

夕食を注文したり、習慣を記録したり、一緒に出かけてくれる相手を探したりする必要があれば、そのためのアプリがある。しかし、農作物の収穫量を増やす必要がある場合はどうだろう?そのためのアプリもある。実のところ、農業イノベーションは最先端技術に依存するものばかりではない。スマホアプリや安定したインターネット接続のような簡単なソリューションが、小規模農家を大きく変えるかもしれない。

ミャンマーでは、Village Linkというデジタルプラットフォームが、農村地域や小規模農家にモバイルテクノロジーや精密農業ソリューションを提供し、他の方法ではアクセスできないようなサービスを提供している。Village Linkはスマホ用アプリであるHtwet Toeを通じて、精密農業アドバイスサービスや市場アクセスを各小規模農家に提供している。また、このアプリからVillage Link Satelliteにアクセスすることで、農家はスマホだけで作物や土地、天候をモニタリングすることができる。

また、スマホアプリは、農家が簡単にアクセスできるサポートを提供することもできる。フィリピンでは、農務省 (DA) が全国の農業関係者のためのオンライン情報発信プラットフォームである水産農業対応管理 (FARM) 市民申請書を開発した。FARMを使えば、ユーザーはいつでも農務省に対し、懸念事項や報告をワンタップで直接送ることができる。このアプリは気象警報を送り、雨量予測を表示し、農家が利用できる緊急ホットラインも提供している。

天然資源が枯渇し、気候変動の影響を受けつつも増え続ける世界の人々を養うために、技術による農業の改善は、安全で持続可能な食糧供給を確保するための重要な対応策の一つであるという考えがますます高まっている。アジアのアグリテック分野における多様な進歩やイノベーションは、農業と食糧安全保障の未来に有望な展望を与えてくれる。

(2022年06月17日公開)

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