ヒマラヤ山脈の形成で新しい洞察...プレートの重なり方を調査、造山運動の定説検証

AsianScientist - 米国と中国の研究チームはインドプレートとユーラシアプレートの重なり方について調べ、造山運動に関する以前の考えを覆そうとしている。

高くそびえるヒマラヤ山脈(パキスタン、ブータン、中国、インド、ネパールなどにまたがる)とチベット高原は、ユーラシアプレートとインドプレートが衝突したときに形成された。これらのプレートは、地球表面でそれぞれが独自に移動する大きな板である。ある新しい研究が、インドプレートはユーラシアプレートの下で下向きに傾いている可能性があると報告した。

一般的には、インドプレートはユーラシアプレートの下に平らに横たわっていると考えられている。この研究結果は学術誌 Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS:全米科学アカデミー紀要)に発表された。それによると、チベット高原の200以上の温泉で見つかったヘリウムの特性に基づいており、今までの造山運動についての考えと対立するものである。2つのプレートの配置が分かれば、科学者たちが大昔に起こった大陸の衝突を理解するのに役立つこととなろう。

約5000万年前、インドプレートとユーラシアプレートが衝突した。ヒマラヤ山脈が形成され、その後、間もなくチベット高原が形成された。しかし、プレート同士の重なり方については長い間議論されてきた。1920年代からいくつかの理論が発表されてきたが、そのうちの2つが最も注目を集めた。1つは、インドプレートはユーラシアプレートの一部であるチベットの下に平らに存在しているとの考えだ。もう1つは、インドプレートはユーラシアプレートの下で、チベット高原の下方に向かって傾斜しているという考えだ。

米スタンフォード大学地球物理学部のサイモン・クレンペラー (Simon Klemperer) 教授が率いる米国と中国の研究者チームは、2つの理論のどちらがヒマラヤ山脈の成り立ちを正確に説明することができるか調べようとした。

クレンペラー教授のチームは長年にわたり、チベット高原の196の地熱温泉から水とガスを収集してきた。データにはチベットの他の29の温泉から以前に報告されたものも含まれている。温泉は暑いところから涼しいところまで、チベット高原全体に点在している。チームは水と、ヘリウムなどの元素を地下数十キロメートルから採取し、地表に運び、銅管に閉じ込めた。ヘリウムが漏れることはない。

インド科学教育研究所(プネ)のシャム・ライ (Shyam Rai) 氏はAsian Scientist に対し、ヘリウムガスは、チベットの地質学的変化の優れた「経過説明者」であると述べた。ライ氏は研究所の地球気候科学部の名誉教授であるが、研究には関与していない。

ヘリウムは水素の次に軽い物質であり、自然界ではヘリウム3とヘリウム4という2つの形態がある。どちらの形態であっても、地球のマントルと地殻をすばやく移動する。

クレンペラー教授はAsian Scientist 誌に対し、「最も大切なことですが、地球のすべてのヘリウム3は、太陽系星雲から凝縮した地球が生まれたときに発生しました。それ以来、ヘリウム3はゆっくりと地球から漏れ出しています」と話す。

この形態の希ガスが見つかった場合、それはマントルから移動してきたもののはずである。逆に、ヘリウム4は地球の地殻内の絶え間ない放射能活動の産物であり、もっと豊富に見つけることができる。したがって、温泉サンプルで見つけたヘリウムの種類に応じて、その発生場所、つまり地球の地殻であるのかマントルであるのかを知ることができる。

クレンペラー教授らは、温泉から得たヘリウムの特性の明確な違いに注目した。北側のヘリウムはマントルから、南側のヘリウムは地殻から来ているのである。このヘリウムの違いは、地球の表面から数キロメートル下にあるチベットマントルとインド地殻の境界線を反映している。研究者たちは、これらの特性から、インドプレートは南のチベットと接触すると、チベットの北側のユーラシアプレートから離れて下向きに角度を付けていると解釈したが、どの程度の角度であるのかはまだ分かっていない。

「このことから、チベットの膨大なデータセットを収集すれば、この境界をマッピングできるようになると分かりました」とクレンペラー教授。

ライ氏は、チベット地域でそこまで大規模なデータ収集は確かに初めてのものになると言い、ヘリウムの特性は、この地域の地質学的変動に関する他のデータと合わせて分析する必要があると付け加えた。ライ氏によると、インドプレートは確かにこの地域でユーラシアプレートの下に傾斜しているようだが、この配置がアジアの東または西にも当てはまるかどうかはまだわからないという。

クレンペラー教授は、東西2つの大陸の明確な境界をたどって、新しいデータから何か発見がないかと考えている。

(2022年06月21日公開)

上へ戻る