2023年01月11日 アジア・太平洋総合研究センター
科学技術振興機構(JST)アジア・太平洋総合研究センターでは、調査報告書『アジア・太平洋主要国・地域の量子技術動向』を公開しました。以下よりダウンロードいただけますので、ご覧ください。
https://spap.jst.go.jp/investigation/report_2022.html
量子コンピュータや量子暗号通信、量子計測・センシングといった「量子技術」が注目されている。量子技術は産業、情報セキュリティ、国防、金融などに大きな影響を及ぼすため、欧米先進国や日本、中国などは相次いで量子技術開発を重点化し、世界的な研究開発競争が展開されている。
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)は、このような量子技術の内外の動向を把握するため、研究開発戦略センター(CRDS)を中心に情報収集・調査分析を行っている。2021 年度の CRDS 調査報告書『論文・特許マップで見る量子技術の国際動向』は、そのような取り組みによる成果の 1 つであり、同報告書の中でアジア・太平洋総合研究センター(APRC)は、急展開する中国の量子技術動向を追った。
中国の動向を調査する中で明らかになってきたのは、量子技術の研究開発におけるアジア・太平洋地域の重要性の高まりである。量子技術分野の論文数の平均伸び率トップはインドであり、2 位中国を台湾、韓国、シンガポールが追いかけている。量子論文の地域別シェアは欧州が最大であり 4 割を占めるが、現在 3 割を占めるアジア・太平洋地域が急追している。先進国に遅れをとってはいるものの、アジア・太平洋の主要国・地域の政策当局は近年、量子技術振興のための取り組みを強化している。欧米と親和性の高い研究コミュニティを持つオーストラリアは、以前から量子技術の研究レベルの高いことで知られている。
本報告書は、着実に重要性を増しつつあるアジア・太平洋主要国・地域、すなわち、中国、インド、オーストラリア、韓国、シンガポール、台湾の 6 カ国・地域の量子技術動向を把握することを目的としている。そのため、各国・地域の量子技術政策動向と研究開発動向、および主要な組織(研究機関・大学・企業)と有力研究者について、オープンソースから収集した情報を整理・分析した。研究開発における国際協力の重要性に鑑み、各国・地域における海外との連携事例についても情報収集に努めた。
2022 年のノーベル物理学賞は、量子情報科学の開拓に貢献した 3 人の研究者に贈られた。受賞者の 1 人であるオーストリア人研究者は、中国で「量子の父」と呼ばれる指導的研究者の恩師としても著名である。量子情報科学を中心とした社会的注目の高まりも相まって、量子技術分野の国際競争は一層加速していくと見られる。本報告書は、アジア・太平洋地域における量子技術分野の国際競争の一端を明らかにするものである。