2023年02月01日 アジア・太平洋総合研究センター
科学技術振興機構(JST)アジア・太平洋総合研究センターでは、調査報告書『論文データベース分析で見るアジア・太平洋地域の研究開発』を公開しました。
以下よりダウンロードいただけますので、ご覧ください。
https://spap.jst.go.jp/investigation/report_2022.html
近年、アジア・太平洋地域の科学技術力の成長に注目が集まっている。中国の論文発表数が著しく増加しているほか、オーストラリア、韓国の台頭もめざましく、インドから輩出されるIT人材のグローバルな活躍、半導体技術で世界の供給拠点となっている台湾、先端的なバイオテクノロジーで注目されるシンガポールなど、地域的特徴が個別的に報じられる機会も多い。しかしこれらの実態を網羅的かつ定量的に把握する基礎情報は従来乏しかった。本調査は、アジア・太平洋の諸国・地域との科学技術協力に資する基礎情報として、エルゼビア・ビー・ブイ(以下、エルゼビア社)が提供する世界最大の学術論文データベースScopusより得た自然科学系論文情報から、各国・地域の情勢を網羅的に収集し、その動向について報告するものである。以下に各章の内容を要約する。
本章ではScopusを使用し、研究論文総数と世界シェアの経年変化を分野ごとに調べ、指定国・地域間の国際比較を行った。併せて、指定国・地域ごとに分野別の情勢を時系列に示した。
この分析からは、中国の過去10年間での目覚ましい伸長が改めて確認できた。バイオメディカル分野におけるオーストラリア・韓国の高い研究開発力や、数物系分野におけるインドの伸長など、追随する諸国・地域でも注目すべき変化がみられた。一方、科学論文の世界に占めるシェアでみたとき、複数の分野で台湾や日本には後退傾向がみられた。
第2章では、アジア・太平洋の指定11カ国・地域で顕著な伸びを示している科学技術領域の傾向を把握するため、学術論文の分野別発表数に着目し、分類コードにより増加影響因子を特定した。具体的には、Scopus収録のジャーナルで、All Science Journal Classification Codes (ASJC) の27の中分野、334の小分野を単位とし、伸びの著しい上位1つの中分野について、小分野による文献集合を基に、キーワードの共起関係を可視化することを試みた。
第3章では、指定11カ国・地域の研究者が出版した国際共著文献を対象に、上位国際共著相手国・地域を特定し、2011-13年と2018-20年とで共著比率の変化を比較した。併せて、論文発表数の多い順にトップ研究機関を分野ごとに上位5機関ずつ特定した。これらの分析を通じ、過去10年の国際共同研究について一定の傾向がみられた。中国やインドでは、総じてアメリカとの共著関係が増加している。オーストラリアや台湾は米英との共著関係を保ちつつも中国との共著関係を伸ばし、韓国やASEAN 6カ国も中国との共著関係を全般的に強化する傾向にある。一方で残念ながら、多くの国・地域や分野で、日本との共著関係は横這いまたは低下したことが明らかとなった。
第4章では付録として、科学論文の件数と世界シェアを、総論文、トップ10%、トップ1%の別に収集し、2011-13年と2018-20年の2時点間で比較した。各項目は対象とする49カ国・地域ごとに一覧した。これを通じて、アジア・太平洋地域の動向を概観し、本調査で具体的に取り上げなかった諸国・地域を検討する際の基礎情報を示した。
全章を通じて、中国の近過去10年間における科学技術力の伸長が定量的に明らかになった。他方で、その他の国・地域の目覚ましい成長ぶりも明らかになった。既に述べたとおり、数学・情報、工学、物理におけるインドの伸長は目覚ましく、医療・健康、ライフサイエンスにおいてオーストラリアや韓国は確かな研究開発力を示している。また東南アジア諸国が、コンピュータ科学を中心として、工学、材料、数学・情報などの関連分野で論文発表数を急激に伸ばしていることも注目に値する。
しかし日本との関係では、第3章でみたように、多くの調査対象地域で日本の共著者率が低下し順位を下げる傾向がみられた。第1章でみたように、世界の科学研究コミュニティにおける日本のシェア低下も関係していると考えられる。今後の科学技術協力の指針を考えるうえでは、国・地域ごとに変化の傾向を見定め、それぞれの要因を検討することも重要である。