【AsianScientist】迅速な診断ソリューションでアジアの薬剤耐性(AMR)と闘う

研究によると、2019年の世界の死亡者数のうち127万人は、世界保健機関(WHO)が世界的な健康問題に分類した薬剤耐性(AMR)が直接の原因であると推定されている。2017年の研究では、AMRが人口全体に蔓延するリスクが最も高い地域の1つが東南アジアであることも明らかになっている。

AMRは、細菌や真菌などの病原体が、それらに対抗するように設計された薬剤に対して時間をかけて生じる耐性のことである。このシナリオでは、利用可能な治療法にもはや反応しない薬剤耐性疾患またはスーパーバグ(スーパー耐性菌)が生まれ、医療システムに負担がかかる。感染症は、たとえ単純な感染症であっても、治療がますます困難になるため、患者の命も危険にさらされる。AMRは自然現象であるが、主に抗菌剤、特に抗生物質の過度の使用や乱用により、その蔓延が近年加速している。

時間が重要である場合、bioMérieuxのBioFire®テクノロジーとそのマルチプレックス・ポリメラーゼ連鎖反応(PCR:polymerase chain reaction)パネルは、感染症を特定する際、臨床医や医師をサポートし、迅速で実用的な診断結果を保証する。

AMRの対処に取り組んでいるbioMérieuxは、BioFire®製品を使用して、病原体をより迅速かつ正確に特定し、抗生物質の不適切な使用を減らすための迅速な診断ソリューションを提供している。米国に本社を置く企業であるBioFireは2000年代に、症候群検査(単一の検査を使用して、同様の症状を示す複数の感染症を特定する新しい手法)を提供するためにPCR技術の開発を開始した。そして2014年に、体外診断ソリューションで世界的大手のbioMérieuxに買収された。

BioFireは、マルチプレックスPCRを活用して複数の疾患を正確かつ迅速に特定する画期的な技術だ

BioFireテクノロジーは、上気道、下気道、血流、胃腸、髄膜炎・脳炎、関節感染症の6つの異なる症候群を対象とする6つのマルチプレックスPCRパネルで構成されている。この使いやすい検査技術は、CEマーキングを取得し、米国食品医薬品局(FDA)による承認を受けており、1時間以内に複数の疾患を特定でき、感度範囲が91.7~99.0%、特異度範囲が97.3~99.8%となっている。

bioMérieuxアジア太平洋のBioFire®製品マネージャーであるローラ・バレストラ(Laura Balestra)氏は「従来の方法では、感染症の原因を特定するのに最大72時間かかり、感度も特異度も高くない技術や培養に頼ることがよくある。さらに、分子法には優れた専門知識が必要であり、通常、夜勤や週末には処理できない。患者の確定的結果を得るまでの長い検査所要時間は、抗菌剤の過度の使用、ひいては AMR につながる可能性がある」と話す。

たとえば、髄膜炎の検査を行いたい医師は、患者から脳脊髄液(CSF:cerebrospinal fluid)を採取し、様々な評価を得るためにそれを様々な検査に送る。それには、生化学分析、菌の培養、PCR及び抗原検査が含まれる。この従来のプロセスでは、結果が出るまでに数日かかるため、患者への適切な治療が遅れてしまう。対照的に、BioFireの検査では、200マイクロリットルのCSFから髄膜炎/脳炎に関連する14の細菌、ウイルス、酵母を特定する時間はわずか1時間である。

最小限のトレーニングを受ければ、BioFire検査は 2 分(実施の作業時間)以内に3つの工程で行うことができる。まず、未処理の試料を、試料調製、PCR及び検出用の凍結乾燥試薬を含むパウチに挿入する。次に、パウチをこのシステムにセットすると、試料から核酸が分離及び精製され、ネスティドマルチプレックスPCRが実行される。この2段階のプロセスには、個々の成分に対してシングルプレックス反応を実行する前に、全体的なマルチプレックス反応を起こさせることが含まれている。最後の段階で、システムが自動的に試料を分析し、標的病原体の存在を検出し、その結果は1時間以内に出る。

「私たちのソリューションは、従来の検査方法よりも速く、包括的で正確である。市場で入手可能な他のマルチプレックスPCRアッセイと比較して、私たちのシステムのパネルメニューは多い。私たちはまた、1,000以上の発表された研究の膨大なデータベースを持っており、これは私たちの症候群の分子アッセイの性能と有用性を裏付けている」(バレストラ氏)

BioFire検査は使い方が簡単で、処理用の試料を準備するのに必要な作業時間はわずか2分

バレストラ氏は2022年4月、インドに出張した際、ある少年が胃の痛みや発熱、血尿の症状で入院した話を聞いた。医師は当初、複数の広域抗生物質と抗真菌薬で彼を治療し、様々な検査を受けさせたが、40時間経っても確定的な結果は得られなかった。彼の血液培養が陽性(細菌感染を意味する)になった際、医師はそれを43の血流関連の標的を特定できる BioFire Blood Culture Identification 2(BCID2)パネルで検査した。1時間以内に、BCID2 パネルは少年の症状の原因がサルモネラであるという確定結果を出した。その後、医師は広域抗生物質と抗真菌薬を中止し、標的療法(ピペラシリン/タゾバクタム)だけを継続した。

BCID2パネルは、BioFireテクノロジーの一部である6つのマルチプレックスPCRパネルの1つである。すべてのパネルには複数の標的があり、そのうち3つは病原体のAMR遺伝子も検出できる。

これらのパネルが実証した臨床上の利点には、診断の迅速化が患者の入院期間の短縮につながるため、病院全体のコスト削減が含まれる。ただし、これらのパネルは主に疾患の原因を特定するために機能するため、抗菌薬感受性試験などの他の方法を補完する試験として使用し、臨床所見を踏まえて結果を解釈する必要がある。

BioMérieuxは常に、BioFireパネルを拡張・進化させて、新しい標的と症候群に取り組んでいる

bioMérieuxは将来を考慮し、疫学の進歩に合わせ、また新たな病気の発生に対処するために、BioFireパネルを常に改善させている。BioFire Respiratory 2.1(RP2.1)パネルには現在、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を取り扱う拡張された標的リストがある。さらに、bioMérieuxは、感染症を診断するための新しくより迅速な方法に対する一般の人々の認識を高めようと努めている。また、そのソリューションを日本と台湾の国家医療保険償還計画の対象にするために取り組んでいる。

AMRが公衆衛生への脅威を増すにつれて、正確で迅速な診断検査がますます必要になっている。病気の原因を特定するために複数の検査を発注し、結果が出るまで何日も待つことは、もはや理想的ではない。

バレストラ氏は「AMRは静かなパンデミックであり、それとの戦いには効果的な診断が不可欠であると考えている。タイムリーな診断結果は、不必要な抗生物質の使用を減らすのに役立ち、抗生物質が必要な場合は、それらが適切に標的にされていることを確認するのに役立つ」と期待している。

(2023年2月7日公開)

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